2016/10/1
「タピオカ理論(2)」からの続き。
前回までの考察でレオさんのタピオカ理論は、このサイトの目指す究極のタイムトラベル「過去へ生身の身体ごと戻り、過去の世界を体験して元の時代に戻ってくる」ことのできそうな稀有の理論であることがわかった。
しかしあくまでネット掲示板「2ch」発の理論である。実はネタかも知れないし、検証することにどこまで意味があるのかわからない。
だがこのサイトの趣旨から、実際にこの理論が真実ならば、現代の物理学でどこまで読み解けるか、今回は挑戦してみたい。
まずスレの中でのレオさんとスレッド参加者の問答で「超弦理論と関連はあるのか?」という質問に対して「弦(ひも)とは両端がくっついている輪なのか、それとも網目状なのか、直線なのか?」
と返している。理論自体は知らなくても超弦理論(には関心がありそうだ。
レオさんがはじめに使っていた「超球理論」と名前を同じくする南堂氏の理論も超弦理論の派生バージョンである。
超弦理論は「もっともお手軽な過去を変える方法(2)」や「超弦理論の10次元とは何だ?」でも簡単に解説しているが、後の検証をわかりやすくするためにもここで改めて紹介しておきたい。
※超弦理論やブレーンワールドに詳しい方はこの部分すっとばして▼まで進んでください。
アインシュタインをはじめとする物理学者は、一般相対性理論(重力の理論・宇宙・マクロ的)と場の量子論(素粒子・ミクロ的)を統一させる「万物の理論(Theory of Everything)」の完成を目指して取り組んできた。
私(BTTP)も「ここまでが相対論の担当するマクロ分野で、ここから先は量子論が担当するミクロ分野」なんて線引きがあるのはおかしいと思う。
ミクロからマクロまでこの世のすべてを説明できる理論があると考える方が自然だ。
しかしその前に立ちふさがったのが、量子論で2つの粒子を近づけていくと、その距離が0になった時点で無限大になってしまう問題である。つまり0次元の点粒子を近づけて互いの距離が0になると、重力の逆二乗則(1/r2)に従い、r=0、1÷0となり0割の無限大になってしまう。
そこで0次元の「点」ではなく1次元の「ひも」ならば長さが有限なので(プランク長さ=10-33㎝)どれだけ近づいても0にはならない、これは上手くいぞと1970年にかの南部博士らが発表し、粒子は振動するひもだとしたのが弦理論だ。
しかし弦理論にはいろいろと問題があり、この理論を成立させるためには26次元というSFでも思いつかないほどの高次元が必要だったり、タキオンという光速を超える仮想粒子が含まれていたため、いったん下火になった。
その後1984年にシュワルツ博士とマイケル・グリーン博士が、素粒子はそれぞれにパートナーとなる超対称粒子をもち、それを組み込むと自然界の4つの力のうち、重力を除く電磁力・強い力・弱い力を(ビッグバン直後のような)エネルギーの高い状態で統一できる可能性があることを発表した。弦理論に超対称性を加えて26→10次元まで減らしたのが超弦理論だ。
それから世界中の物理学者が躍起になり超弦理論を研究した結果、またしても問題が発生した。閉じたひもや開いたひもなどひもの種類や超対称性の組み合わせにより5つもの理論が出来てしまった。
そして1995年にプリンストン大学のウィッテン博士により、1次元のひもにさらに1次元を加えて2次元の膜とし、10次元の超弦理論を11次元で考えると5つの超弦理論が1つの理論で統一されるというM理論が発表された。
そしてこのM理論やそれを含む超弦理論が、現在の物理学では重力と量子力学を統一することのできる万物の理論に最も近いと言われている。
さて物理学では、われわれの住む4次元時空(空間3次元+時間1次元)以上の高次元を「余剰次元」と呼ぶが、実は超弦理論やM理論以外にも余剰次元を想定する理論は古くから存在した。
例えば1920年代に重力と電磁気力を統一するためにカルツァ博士が提唱しクライン博士が修正したカルツァ=クライン理論では、5次元以上の時空を仮定する。これらの理論では余剰次元をわれわれが認識できない理由として、余剰次元は通常の観測手段では見えないほど小さく丸まっているとされる(例えば超弦理論では4次元時空以外の6次元がコンパクト化されている)。
これに対し、余剰次元は小さいのではなく、われわれの住む宇宙が膜(ブレーン)上にくっついて存在しているため、膜より高次元の時空(バルク)を認識できないのだとするブレーン理論が考え出された。
ブレーン理論の特筆すべき点は、自然界に存在する4つの力を比べたとき、強い力>電磁力>弱い力>>>>重力というように「なぜ重力は他の3つの力に比べて極端に弱いのか?」という階層性問題を解決できる可能性があるところだ。
超弦理論のひもには「閉じたひも」と「開いたひも」の2種類があるが、「開いたひも」は4つの力のうち電磁力と強い力、弱い力に対応しており、開いたひもの両端は常にブレーンにくっついて離れることができない。
「閉じたひも」に対応する重力だけが、ブレーンを離れて高次元のバルクに移動することができる。重力が高次元に漏れ出しているせいで、他の力と比べて極端に弱いというのだ。
リサ・ランドール博士とラマン・サンドラム博士が1999年に発表した「ワープした(歪んだ)余剰次元」(「ワープする宇宙
5次元時空の謎を解く」より)も代表的なモデルの1つで、ブレーン理論の宇宙のモデルはブレーンワールドと呼ばれる
▼さて、タピオカ理論はこのブレーンワールドとよく似ている。
まずもう一度レオさんのタピオカ理論図を見てみよう。
膜という名前からブレーンは2次元を連想してしまうが、1次元や3次元にも対応できる。
ここでまず、タピオカ(3次元の時間)を3次元のブレーンと仮定する。
そして動的宇宙をわれわれの宇宙(3次元空間)、静止宇宙をバルクに対応させ、動的宇宙のくっついたタピオカが静止宇宙を移動する流れをそのまま時間の流れとすると、タピオカ理論は下記の図のように置き換えることができる。
もちろんそれぞれの置き換えには理由がある。
(1)タピオカ理論では、われわれの住む宇宙(動的宇宙)はタピオカにくっついている。
ブレーンワールドでの重力を除く3つの力(電磁気力・強い力・弱い力)に対応する開いたひもは、両端がブレーンにくっついて離れることができない(だから高次元を観測できない理由にもなっている)。
(2)タピオカ理論では、静止宇宙に無数のタピオカが浮かんでおり、それぞれのタピオカは時間の流れも物理法則さえも異なる可能性がある。ただし同じタピオカ上の動的宇宙は誕生時期こそ違うが、基本的な時間の流れや物理法則は共通している。
ブレーンワールドでも、バルク上にはたくさんのブレーンが浮かんでおり、それらをマルチバース(多宇宙)と呼んでいる。ブレーン間同士は物理法則も違う可能性が高く、連絡手段もない。ただし閉じたひもである重力だけがバルクを通じて相互作用できる。
(3)タピオカ理論では、次元数を動的宇宙(3次元)+タピオカ(3次元)+静止宇宙(3次元)+時の流れ(1次元)=10次元とする。
ランドール博士によれば、ブレーンワールドでのバルクは最低ブレーン以上の次元数をもっているとされる。つまりバルクはブレーンと同じ次元数(3次元)かそれ以上になる。
ブレーンワールドでは、われわれの住む宇宙(3次元)+ブレーン(3次元)+バルク(3次元以上)+時の流れ(1次元)=10次元以上になり、10次元は超弦理論が必要とする次元数と一致する。
さてここで宇宙のはじまりをタピオカ理論とブレーンワールドで考えてみよう。
われわれの宇宙のはじまりは、現在の宇宙論ではインフレーションというビッグバン以前に宇宙が急激に膨張したという考え方が主流になっている。
ちなみにビッグバンによって誕生した宇宙がその直後に膨張し、今日の宇宙の原型ができたとインフレーションを説明しているものもあるが、これは間違い。
正確には量子のゆらぎにより10-44cmという途方もないミクロからはじまったインフレーションが、わずか10-44秒後から10-33秒後というこれまたほんのわずかな時間の間に1cm以上の大きさまで膨張し、その膨張によって火の玉がつくられ、その火の玉が膨張(ビッグバン)して宇宙の大きさにまで広がったと考えられている。
しかしインフレーション前の量子のゆらぎがなぜ起こったのかはまだよくわかっていない。
●宇宙のはじまりに関して
(4)タピオカ理論では、タピオカとタピオカの衝突(ビッグスペース)によって、お互いの衝突点に動的宇宙が誕生したとされる(われわれの宇宙でいうビッグバン)。
ブレーンワールドには「循環する宇宙」というモデルがあり、宇宙には3次元空間を持つブレーンが2枚あって、定期的に衝突を繰り返しているとされる。
ケンブリッジ大学のニール・テュロック博士らが提唱した「エキピロティック宇宙論」(エキピロティックはギリシャ語で大火の意味)では、ブレーンの衝突点がビッグバンになる。さらにこの宇宙同士の衝突が何度も起こった(過去に50回ほど)と主張するサイクリック宇宙論もある。
(5)タピオカ理論では、タピオカ上にビッグスペースによって誕生した80億~100億の動的宇宙が存在し、それぞれが誕生時期によってそれぞれの動的宇宙の年齢(歴史といった方が適切か)は異なる。
ブレーンワールドでもエキピロティック宇宙論によってブレーン上に宇宙が誕生し、3次元ブレーン上には衝突の回数によって数々の宇宙が誕生していると考えられる。
以上から、タピオカ理論をブレーン理論に対応させたモデルをタピオカ式ブレーンワールドと呼ぶことにする。
タピオカ式ブレーンワールドでは、宇宙のはじまりだけでなく、終わり方についても示唆される。
1929年にエドウィン・ハッブル博士によって観測された赤方偏移によって宇宙は膨張をつづけていることがわかったが、このまま膨張していくと宇宙の未来はどうなるのか?
●宇宙の終わりに関して
【熱的死】
膨張を続けた宇宙はやがて惑星同士の空間が広がり、惑星や宇宙の持つ熱量は減少していき、やがて宇宙全体が平衡となり静かな「熱的死」を迎える。
【ビッグリップ】
宇宙の膨張速度はなぜか加速している(その原因は宇宙の73%を占めるものの正体のわかっていないダークエネルギー)。この加速度が持続した場合、宇宙全体が加速に耐えきれず裂けて(リップ)してしまうのかも知れない。
【ビッグクランチ】
現在は膨張をしている宇宙も、宇宙全体の重力が膨張エネルギー勝ってくると次第に減速していき、やがて収縮に転じる。最終的には小さな小さなプランクスケール以下の特異点となって終わる。
【ビッグバウンス】
ビッグクランチにより宇宙のはじまりのようなプランクスケール(10-33cm)以下まで縮まってしまった宇宙は終いにエネルギーを詰め込むためのスペースがなくなり、非常に高密度の状況で重力は斥力に変化し、ビッグバウンス(大きな反発)が起こって再びビッグバンがはじまる。これは宇宙は永続的な循環を繰り返すというサイクリック宇宙論の基礎にもなっている。
この4つが現在考えられている主な宇宙の終焉だ。レオさんもそうだが、物理学者たちはやけに「ビッグ」という言葉が好きなんだな・・・
タピオカ理論では、レオさんは動的宇宙の終わりをビッグシフトと呼び、それが起こるのは3800年と言っているが具体的な内容に関しては明言を避けている。しかし次のような例えで教えてくれた。
タピオカ上に落ちたしずく例えると、落ちたしずくはタピオカの表面を覆っていく。
覆い尽くした最後がビッグシフトである。
レオさんはビッグシフトを現在の宇宙の終焉でいうと、ビッグクランチだと言っている。これをイメージにすると次のようになる。
タピオカ式ブレーンワールドでの宇宙の最後とは、他のブレーンとの衝突によって誕生した宇宙が3次元ブレーンを広がっていき(これは現在観測される膨張する宇宙と一致する)、広がりきった宇宙がブレーンをすべてを覆った時点で体積0・質量無限大の特異点となって終了する。
しかしここで一つ疑問が・・・。
今までの考察をまとめると、タピオカ式ブレーンワールド上での無数の宇宙は、それぞれが他の宇宙に覆いかぶさり広がっていることになる。宇宙同士が接触することによって混ざったり、互いに影響を及ぼすことはないのだろうか?
しかし元々のレオさんの理論に立ち返って考えると、タピオカに例えていたのは「3次元の時間」である(空間ではない)。
「時間って何だ?(相対論的スポットライト理論)」と同じような意見だが、レオさんによるとタピオカは過去から未来までのあらゆる可能性の詰まった時間であり、われわれの宇宙はその3次元の可能性の表面を広がっていくだけだ。
レオさんは表面に落ちたしずくと表現したが、スポットライト理論のようにただ宇宙の波がブレーンの表面を移動してくと考えれば、その軌跡は波紋の輪のように例えられる。
そのときそのときの宇宙の瞬間を輪(実際は3次元なのでドーナツのようなトーラス形)とみなせば、それぞれの宇宙は重なることなく広がり、最終的に特異点になって最後を迎えられる。
スポットライト理論の提唱者、スコウ博士風に言うと「未来はまだやってきていないのではなく、すでにあるがスポットが当たっていないだけだ。過去は過ぎ去ったのではなく、存在してはいるがスポットがそこから移動してしまっただけなのだ」。
長くなってしまったので、タピオカ式ブレーンワールドにおけるタイムトラベルの方法は次回に。
ただ、まだ一番の難問が残っている。レオさんのいう「静止宇宙に入る具体的な方法、光の質量を99.999%にして、その光をまとってGO!」は現在の物理学でどうやって解説できるのか?
帝都大学の某教授風にいうと「さっぱりわからない・・・」