●「並行記憶(2)(酔歩する男 )」

2017/3/10

時間迷宮イメージ

前回ご案内したとおり、パラレルワールドの記憶=「並行記憶」を考察するために、まず1冊のSF小説をご紹介する。

 

●小林泰三著 「酔歩する男」

 

SF作家の小林泰三氏のデビュー作「玩具修理者」に収録されている、というよりむしろ長さ的にはこちらがメインともいえる小説で、タイムトラベルがテーマである。

 

いままで数々のタイムトラベル・タイムマシンをテーマとした小説や映画を見てきたが、インパクトではこの話がトップだ。

 

読後感はタイトル通り、まさに頭がくらくらする。

 

ジャンル的にはSF小説なのだが、精神的に追い詰められるホラー要素もある。

 

簡単にあらすじを紹介すると、

 

 

ある夜、いきつけのパブで飲んでいた主人公は、見知らぬ男から声をかけられる。

 

「わたしを覚えていますか?」

 

覚えてないと告げると、男は不思議なことを言った。

 

「あなたと私は大学時代からの親友でした」

 

でもやはり記憶にないと告げると「あなたが覚えてなければわたしたちは無関係なのでしょう」

 

酩酊している風でもないのにつじつまの合わない話ばかりする男との会話を切り上げて、主人公が席に戻ろうとしたとき、男は主人公の名をフルネームで呼び、自分しか知らないはずの学生のときに書いた詩集のことまでを語った。

 

待たせていたタクシーにせかされていったんは店を出た主人公だが、どうしても男の話が頭から離れずパブに戻ってしまう。

 

帰ってきた主人公は男に詳しく話を聞かせてくれと詰め寄る。

 

男が語った奇妙な話とは・・・・・・

 

学生時代に男と主人公は親友だった。

しかしある女性を同時に本気で愛してしまい、しかもその女性が男と主人公のどちらを選ぶかという間際で電車にひかれて死んでしまう。

 

2人とも大きなショックを受けたが主人公は男に恐ろしい計画を提案をする。

主人公は密かに女性の轢死した身体の一部を持ち帰っており、その肉片から彼女をクローンとして生き返らせようというのだ。

彼女の死には男も責任を感じており、手伝えとせがまれて従うしかなかった。

 

2人は医大を受けなおしたが、男は受かったものの、主人公は落ちてしまう。

自分は別の方法を探すという主人公。違う道に分かれて研究した方が、一方がダメだった場合でも他方の可能性が残るからだ。

 

30年後、家庭を持ち立派な医大の教授になった男の元に、薄汚れた主人公が現れる。

男が結局クローンの件は実現しなかったことを主人公に告げると、男を罵りながらも主人公は自分の研究してきた実験を手伝えという。

 

主人公は男に「時間感覚に障害を持った患者」のデータ収集と「粒子線がん治療装置」の使用を要望する。

 

要望をかなえた男に主人公は自分の研究の目的を「時間の逆行」だと明かす。

 

主人公によると、時間の流れは人間の脳のある部位が作りだした錯覚に過ぎず、時間は本来不連続でバラバラなものなのだ。物理学のいかなる法則も時間の逆の流れを禁止はしていない。

 

昨日の後に明日ではなく明後日がやってくるような時間感覚に障害をもつ患者の脳には、共通部位に疾患があることがわかった。

 

粒子線で脳のその部位を破壊してしまえば制御機能はなくなり、時間を逆行させることができるはずだ。

 

主人公はこの方法で意識を過去の身体に移行させて、電車にひかれる前に女性を救おうと考えたのだ。

 

主人公の気迫に押されて実験を手伝うことになる男。

 

男の補助で施術を終えて装置から出てきた主人公には、しかし時間感覚に変化がなかった。主人公は憤り、同様の処置を男も施せという。女性の死の責任を主人公に突き詰められ、半ば強制的に施術を受ける男。

 

無事生還した男だが、そのときは主人公と同様に時間感覚に変化はなかった。

 

しかしその翌日目覚めると、1ヶ月以上が経過していた・・・・・・。

 

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簡単にと言いながら、けっこう長くなってしまった。

 

最初にタイムトラベルがテーマと紹介したが、肉体をともなわない意識だけの移行なので、現象的にはタイムリープと呼ぶほうが正しいだろう。

 

主人公の研究には1つ誤算があった。彼と男は眠るとタイムリープすることができるが、いつの日に飛べるかは選ぶことができない。未来にいくのか過去にいくのかわからない。この話はここからが山場なのだが関心のある方はぜひ原作を読んで欲しい。

 

さて、この物語は「時間がなぜ流れているように見えるのか?」という命題を、よくある因果律やエントロピーの増大、宇宙の膨張ではなく、量子論における波動関数の収縮として説明している点が興味深い。

 

またタイムリープ能力を、脳を「改良」して獲得するのではなく、逆に時間制御を司る部位を「破壊」して、時間本来の不連続体という性質を開放することによって実現するのもおもしろい。

 

実はネタバレになるので詳細を述べることはできないが、この時間制御を司る部位、この物語では非常に重要な「安全装置」なのである。

 

その安全装置を破壊してしまうとどうなるか? ・・・おぉっとこれ以上は。

 

さて「酔歩する男」の紹介はこれぐらいにして、この物語でも提示された「時間は連続体ではなく、不連続なもの」という考え方について考察していく。

 

時間が連続している線のようなものではなく、点のようなものの集合体という考えからは、物理学でも検討されている。

 

●時間は不連続のパラパラ漫画だった!? 意外と長い「最小時間」とタイムトラベルの謎とは?

2016/3/8 トカナより

 

量子論の創始者の一人でドイツの物理学者マックス・プランクは、波と考えられていた光が実は不連続の粒子ではないかと考え、光の最小単位に関する定数=プランク定数を考案した。

 

1990年代に入りプランクの理論が時間にも適用できるのではないかとする研究がはじまり、それ以上分割不可能な時間、つまり「最小時間」をプランク時間(5.391×10-44秒)としている。

 

トカナの記事では、もし時間が不連続なもので、かつそれぞれがそれほど短いものでない(もちろん量子力学の世界でだが)とすれば、将来的にタイムトラベルが可能になることを示唆している。

 

ここでやっと本来の「並行記憶」の考察に戻るが、「時間」も「パラレルワールド」も、どちらも宇宙がはじまった瞬間と同時に生まれたもので、そのときすでにすべての「時間」と「パラレルワールド」が存在していて、そこをわれわれの意識が移動しているのにすぎないのであれば、いわゆるパラレルワールドも時間もパラパラ漫画みたいに見ることができるのかもしれない。

 

この考え方は、このサイトでもよく紹介するスポットライト理論の「時間」に「パラレルワールド」の要素を加えたものである。

 

スポットライト理論では「時間」を1本の映画フィルムに例えたりするが、「時間」と「パラレルワールド」をあわせたものを1つの丸いステージと例え、そのステージをぐるりと取り囲むいろいろな観客席からわれわれが見ているのだとしたらどうだろう。

 

観客席Aとそこから離れた観客席Bからみたステージの光景は違うはずだ。その違う光景を見た記憶が「並行記憶」の正体だとしたら・・・。

 

次回は一時期少しだけ2chで話題になった「四次元を見つけてしまった」というスレを元に、この考察を掘り下げてみたい。