●「この世界は仮想現実」("私"という意識の正体)

2022/2/19

 

仮想現実イメージ

 

今回は「この世界は仮想現実」という主張を「シミュレーション仮説」「超弦理論」「ホログラフィー原理」などの最新の物理学から考察し、「私」という意識の正体も探る。

 

●Youtube動画はこちら↓

 

さっそく仮想現実の代表的な主張「シミュレーション仮説」から。

シミュレーション仮説

この仮設は、オックスフォード大学の教授、ニック・ボストロム博士が2003年に発表した論文から広まった。

ボストロム博士は、ポストヒューマンという人類を超越して進化した「超人類」の存在を仮定し、3つの可能性を提示した。

 

1.いかなる種族も、そのような超人類に進化する前に戦争などで絶滅してしまう。

 

2.進化した超人類は、自分たちの祖先の歴史を再現するシミュレーションに関心を示さない。

 

3.超人類は、いずれ必ず祖先の歴史をシミュレーションする。

 

この3つの可能性の中で、1と2の可能性が正しかった場合、われわれが住んでいるこの世界は、まぎれもなく現実世界だ。

ただし3つ目の可能性が正しかった場合、われわれは超人類によってシミュレーションされた世界、つまり仮想現実に住んでいる

 

そもそもそんな超人類はいるのか?

 

われわれ人類とコンタクトできる地球外文明の数を計算する「ドレイクの方程式」を解くと、確かに地球外文明がいる可能性があり、その中には、はるかに進化した超人類がいるかもしれない。

 

ではその超人類がいたとして、われわれが彼らの作った仮想現実の中にいる可能性はどれくらいなのか?

 

2016年にアメリカ自然史博物館で「宇宙は仮想現実か?」をテーマにした討論会が開かれた。

出席した5人のパネリストのうち、最も高い確率を示したのは、ニューヨーク大学のデイヴィッド・チャーマーズ博士42%。マサチューセッツ工科大学のマックス・テグマーク博士17%、ハーバード大学のリサ・ランドール博士ほぼ0%と答えた。科学者でも意見が割れてるようだ。

シミュレーション仮説の否定的意見

否定的意見をまとめると、どんなに進んだ文明でも、この宇宙全体をシミュレートするコンピューターを作るのは物理的に不可能

仮に作れたとしても、その文明もさらにその文明を超える存在の作ったシミュレーションの中にいる可能性があり、その可能性は無限に続いていく

万が一われわれが仮想現実の中にいたとしても、中にいるわれわれにはそれを知るすべはなく意味がないなどだ。

シミュレーション仮説の肯定的意見

仮想現実だと主張する人の意見として、世界の大富豪、イーロン・マスク氏はシミュレーション仮説を強く支持しているし、最近metaに社名を変えたfacebookの創業者、マーク・ザッカーバーグ氏が進めているメタバースも仮想現実だ。

ボストロム博士が示した3つ目の可能性、やはり進化した超人類は祖先のシミュレーションを作るのではないか。

 

ボストロム博士は論文「ARE YOU LIVING IN A COMPUTER SIMULATION?」の中で、人間の脳のシナプス間のやりとりを計算すると1秒間に10の16乗から17乗回人類の歴史をシミュレーションするならば1秒間に10の33乗から36乗回の計算が必要になると書いている。

ただしボストロム博士によると、惑星規模のコンピューターなら1秒間に10の42乗の計算が可能で、超人類はそれを超える性能のスーパーコンピューターを持っているかもしれない。宇宙全体のシミュレーションなんて想像がつかないが・・・。

 

実は私も、この宇宙は仮想現実の可能性が高いと考えている。

ただそれは、現在のコンピューターの延長線上にあるようなシミュレーションではない。

この世界は、宇宙の果てから投影されたホログラム

物理学には、100年以上解決できていない問題がある。それは「重力」を「量子力学」で説明することだ。

 

量子力学を研究するミクロの世界では、2つの粒子の距離を近づければ近づけるほど重力が大きくなってしまい、最終的に無限大になって計算不能になる

これを解決するためにわれわれを形作る最小単位を粒子のような「点」ではなく1本の「弦」「ひも」としてとらえたのが「超弦理論」だ。

超弦理論
超弦理論

ひもならば2本のひもの距離を近づけていくと1本のひもになり、計算が可能になる

 

1997年にプリンストン高等研究所のファン・マルダセナ博士は、この超弦理論を使って重力を含む4次元を、その境界にある1つ次元を少なくした重力を含まない3次元の場の量子論で計算できる理論を考案した。

つまり重力を、1つ次元を落とすことでミクロの量子力学で計算できるようにしたのだ。

 

そしてマルダセナ博士の考案した理論を応用して考え出されたのが、3次元の空間の情報は、その境界にある2次元の表面に蓄えられているという「ホログラフィー原理」だ。

ちなみに「ホログラフィー」は、2次元の画像にレーザーをあてると3次元の像が浮かび上がるホログラムに例えている。

 

この「ホログラフィー原理」を使えば、われわれの住んでいる3次元空間は幻想で、そのはるか彼方の2次元に投影された情報こそが、本質だといえる。

 

まるでSFみたいな話だが、ホーキング博士はこのアイデアを使って、ブラックホールの情報量は、その内側の体積ではなく表面積で計算できるという「ブラックホール・エントロピー」の式を考案した。

つまりブラックホールに飲み込まれた情報は、その内側ではなく、事象の地平面という境界に張り付いているのだ。

ブラックホールの中には、われわれのような宇宙が広がっているかもしれない。

 

そしてわれわれも、もしかしたらブラックホールの中にいるのかもしれない

はるか彼方の宇宙の境界には、われわれの世界の情報がすべて記録されている・・・。

これはつまり、われわれはデータで作られた世界、つまり仮想現実の中に住んでいるといえるのではないか。

ブラックホールや宇宙の境界の観測は簡単ではないから、その証明はずっと先になるだろうが・・・。

 

もう1つ、超弦理論で計算すると、この世界は10次元になる。

とても簡単にいうと、超弦理論の方程式の次元数から10を引くと0になり、うまく問題が消えるからだ。

とにかく10次元でないと超弦理論が成り立たない。

でも不思議だ。われわれが住んでいるのは3次元空間だ。時間を足しても4次元時空だ。あとの6つの次元はどこにあるのか?

 

実は、われわれの世界の中に小さく小さく丸め込まれているのだ。この6次元を図式化したものが「カラビ・ヤウ空間」だ。

カラビ・ヤウ空間
カラビ・ヤウ空間

心身二元論

この世界が仮想現実だったら、「私」「意識」「自我」「自由意志」と呼ばれるものの正体は何なんか?

これは古の時代から、人類を悩ませてきた難問だ。

 

古代ギリシアでは、人が死ぬと体から魂が抜け、魂は神の元に帰っていくと考えられていた。

 

17世紀の哲学者、デカルト「我思う、ゆえに我あり」と言い、人間の本質は自己の意識だと説いた。

物事の本質を追求していくと、まわりのものや、もしかしたら自分の体もすべて幻かもしれないが、それを疑っている自分の意識だけは、確かに存在しているという意味だ。

 

でも意識は科学で扱うことが難しく、真実を追及するには意識を科学と切り離す必要があるとデカルトは考えた。

意識を科学の対象から切り離し、体のような物質だけを科学の対象としたのがデカルトの「心身二元論」だ。

 

しかし科学が発達していくにつれ、この世界を構成する根源的なものは原子のような物質で、目に見えない意識もいずれは物理的に説明できるという「唯物論」が広まっていった。

自由意志を調べる実験

現代でも脳科学のさまざまな実験から、唯物論の方が優勢だ。

たとえば、カリフォルニア大学のベンジャミン・リベット博士は、1983年に人間の自由意志を調べる実験を行った。

 

被験者の手首に電極を付け、被験者が「腕よ曲がれ」と意識した瞬間を脳波計で調べた。

この実験では、被験者が「腕よ曲がれ」と意識してから実際に曲がるまでに0.5秒かかった。

けれど脳の運動野から筋肉へ指令が出た瞬間は、それよりも0.3秒ほど早く、腕が曲がる0.2秒前にはすでに脳から指令が出されていた

 

この意識に先立って計測される電気信号を、リベット博士は「準備電位」と呼び、脳の活動は人間の意志に先行して生まれ、われわれの自由意志はその結果にすぎないと説明した。

 

リベット博士によれば、われわれの意識が視覚から入った情報を認識し行動に移すまでに、平均して0.5秒ほどかかるという。

しかし車を運転していて急に子供が飛び出してブレーキを踏むまでには、わずか0.15秒しかかからない。

これは、意識よりも前に脳が、危険を察知して行動しているということだ。

 

リベット博士の実験から、世界中で同じような実験が行われた。

UCLAの神経外科医、イツァーク・フリード博士がてんかん患者の協力で行った実験では、前頭前野に電極を刺し、いつでも好きな時にボタンを押してもらった。

患者がボタンを押す0.9秒も前に多くのニューロンの活動レベルが変化し、患者がボタンを押そうとする前に実験者はそのタイミングを80%以上の確率で予測できた

 

ボタンを押すためには指の筋肉を収縮しなければならず、筋肉が収縮するためには活動電位の発生が必要で、そのためには脳の運動野のニューロンが発火しなければならない。

しかしニューロンがいつ発火するかはランダムで、これは、脳内の特定の回路の「無意識」によって引き起こされる。つまりボタンを押そうとする行為は「無意識下」でランダムに決定され、あなたの「意識とは関係ないようなのだ。

受動意識仮説

慶応大学の前野隆司教授はこれらの結果から、われわれの意識を自己を認識している「自我」と、自動的に環境や経験に応じて反応する「無意識」に分け、実は無意識が主体で、自我は受動的なものだという「受動意識仮説」を提唱している。

一般的には自我が無意識をコントロールしているように思える、よく考えてみると、常にそんな作業をしていると脳はすぐオーバーヒートしてしまう。

普段は無意識がわれわれの体をコントロールしていて、それを自我が「自分が決めた」と思い込んでいるにすぎないと言うのだ。

 

前野教授は、われわれの体は「意識」という幻想を鑑賞するための移動式観測装置にすぎず、幻想である意識は死んでしまえばなくなり、それでも世界は続いていく。

だから意識や体があなたの所有物といのも幻想だし、そこに何の意味もないと…。

とても虚しく聞こえるが、前野教授の真意は「だから未来や来世を思い悩むのではなく、今というこの瞬間を大切に生きよう」ということだ。

 

ほかにも「意識のない人間とはどういものか?」を具体的に説明している科学者がいる。

上で紹介した仮想現実の討論会で一番高い可能性を示した、ニューヨーク大学のデイビッド・チャーマーズ博士だ。

 

チャーマーズ博士は、見た目はまったく普通の人間だが、クオリアだけを欠いた存在「哲学的ゾンビ」を仮定した。

哲学的ゾンビと意識のハード・プロブレム

「クオリア」とは、簡単にいうと「〇〇のような感じ」のことだ。

たとえば「青空って気持ちいいよね」と内面から湧き上がる、独特の感覚のことで、哲学的ゾンビにはこのクオリアが存在せず、青空を見ても気持ちいいと感じない。

しかし哲学的ゾンビは普通の人間と同じように「青空って気持ちいい」と反応する。

 

哲学的ゾンビは、普通の人間と同じように、笑い、怒り、泣く。だから哲学的ゾンビと長年付き合っても、普通の人間と区別することはできない

 

前野教授の仮説が正しければ、われわれは皆、反応によってそれっぽくふるまっている哲学的ゾンビかもしれない

「私」は、私の司令塔ではなく、私で起こっていることの単なる「観測者」なのかも・・・。

 

チャーマーズ博士は、われわれが哲学的ゾンビでなかったら、この内面的な経験「クオリア」は、いったい何なのかという「意識のハード・プロブレム」を提示し、その答えとして「情報の二相理論」を説明している。

 

この世界の根源的なものは、意識でも体のような物質でもなく「情報」で、その情報から「意識」や「物質」が作られるという理論だ。

 

「この世界は、宇宙の彼方の地平面から投影されたホログラム」という仮説から考えると、宇宙の果ての地平面が1つのデータベースで、その中に世界を作る情報や、われわれの自己意識を作る情報が入っている。

「私」がこの世界を認識したとき、データベースから量子もつれによって2次元平面から3次元世界に情報が変換されてこの世界を見せられる世界は「私」がいなくても存在し、しかも「私」という自己意識の数だけ存在する

 

1人1人に違った世界が存在しているのならば、とても巨大なデータベースが必要になると思える。

だがRPGのゲームカセットにたとえると、マルチエンディングのRPGでは同じ「あなた」という名前のキャラクターが、いろいろなルートをたどって違ったエンディングを迎える。

もちろんほかのキャラクターも、セーブできる数だけ作ることができる。

 

宇宙の地平面がゲームカセットと違うのは、同時にセーブできるデータ量がはるかに大きいことだ。しかもこの宇宙は膨張しているから、その容量はどんどん大きくなっている

 

この世界の根源が情報であり、それをわれわれが観測者として見せられているだけなら、このサイトのテーマの1つ、意識だけが過去や未来へ時間移動する「タイムリープ」も簡単に説明することができる。

 

タイムリープや臨死体験、生まれ変わりや異世界へ迷い込んだ話、これらはすべてデータベースからの情報の生成がミスってしまった「エラー」なのだ。

でもこの世界には原理や法則があるから、めったには起きない

 

しかしそういう意味では、6次元のカラビヤウ空間にいるかもしれない創造主の正体もイメージできるかもしれない。

それは・・・「この世界の基本的な原理や法則」。それがこの仮想現実を作ったポストヒューマン、言い換えれば「神」の正体かもしれない。