●虚偽記憶

2016/6/23

 

真実と嘘イメージ

 

ひさびさに会った友人と話をしていて、「あれ? 何か自分の記憶と食い違っているぞ」という経験をしたことはないだろうか?

 

例えば同窓会で集まったとき「クラスにあんなやついたな」とか「あいつは影が薄かった」とか話しているうちに、「そんなヤツいたっけ?」とか「そんなやつ元々いなかったぞ」となるパターン。

 

2chのオカルト板でもときどき「昔いたはずの友達がみんなの記憶から消えていた」みたいな話が投稿される。

 

これは実は記憶の改変が起こったのかもしれない(そのうちの何%かは異世界に迷い込んだ可能性もあるが)。

 

記憶の改変というと、勝手に他人に頭の中をいじられて記憶が操られるようなイメージを受けるが、実際に記憶を操作したのは自分自身だ

 

米カリフォルニア大学のシャーリー・ベルコウィッツ教授によると、年齢や知能の高さなどにかかわらず、我々は誰しも偽の記憶を作っているという。ベルコウィッツ教授は、長年の記憶に関する研究の結果、「我々が記憶を紐解く際、脳は小さなヒントを元に過去の記憶を『再構築』している。つまり我々が何かを思い出そうとするとき、常に新しい記憶を作り上げてしまっている」そうだ。

 

記憶というと、オリジナルの出来事へ時間をさかのぼって思い出すイメージだが、実は取り出すたびに、少しずつその正確さを欠いていく可能性がある。 

 

この「自らが作り上げた実際には起っていないはずの偽の記憶」は「虚偽記憶」と呼ばれる。「虚偽記憶」は、われわれの個人的な記憶が社会に同調する形でたやすく変化しがちなことにも起因する。

 

例えば2001年のアメリカ同時多発テロの数日後に、心理学者たちが人々の体験についてインタヴューを行った。その1年後、個々の記憶について追跡調査を行ったところ、事件の詳細の37%が最初の叙述から変化していた。そして3年後の2004年には、50%近くの人々の叙述が変わっていたという。

 

記憶があいまいになる理由は、ベルコウィッツ教授の説のように、過去の出来事を思い出そうとするたびに、脳のネットワークが、ひっぱり出した情報をその都度書き換えてしまうことにより起こる。 

  

例えば刑事裁判で目撃者が証言する際、目撃者は、最初はかなり正確に見たことを覚えているが、何度も過去思い出そうとするたびに、それが曖昧になってくる。

米ノースウェスタン大学の実験で70人の人に記憶の正確性と時間経過、想起回数に関する実験をしたところ、すべての人にこの傾向が見られたという。記憶が大なり小なり歪められるのは、人はたいてい都合のいいように記憶を適応させてしまうからだ。 

 

われわれは自分の記憶が絶対的なものだと信じているが、実際は新しい情報と混ざり合って変化してしまう。

 

さらに虚偽記憶を、意図的につくり出してしまうこともできる

 

実際に理化学研究所が、2013年にマウスを使った実験で「誤りの記憶を形成できる」ことを証明した

 

研究チームはこれまでに、マウスの脳の記憶を保存する特定の領域に光をあてることで、脳に保存されている記憶を思い出させることに成功していた。そこで研究チームは、最先端の光遺伝学(オプトジェネテイクス)という技術を使って「虚偽記憶がどのように形成されるのか」という謎の解明に挑戦した。

 

実験ではまず、安全な環境である箱Aの記憶をマウスの脳に形成し、次にこのマウスを異なった環境の箱Bに入れる。このとき箱Aの記憶を思い出させるため脳に光をあて、それと同時に弱い電気ショックを与えた。

すると電気ショックと箱Aの記憶が結びつき、このマウスはその後安全な箱Aに入れても恐怖反応を示した。さらに、箱Aの記憶に対応した脳細胞に光を当てただけで、恐怖反応が生じた。

つまり安全な箱Aの記憶は、恐怖といっしょになった別の記憶へと再構成されたのだ

 

これがマウスだけでなく人間にも応用できるとしたら、人の記憶を操って偽の記憶を植えつけることができるかもしれない。

偽の記憶ということはその人の過去を変えてしまうことと同じ意味だ。つまり「過去改変」=このサイトのテーマである過去を変える方法の1つになりうる。

タイムマシンに乗ってリスクや困難を乗り越え過去に戻り、歴史を変えるよりも、かなりお手軽な方法だ。

 

ただこれは個人的なレベルの過去改変である。たった一人の記憶を変えたところで世界は変わらない。どうすれば大勢の人の、いやこの世界そのものの過去を変えることができるのか?

 

次回は、いよいよ今までの理論をまとめて本格的な「過去を変える方法」を考える。