2019/10/12
すいきんちかもくどってんかいめい・・・
「何の呪文だ?」と思われるかもしれないが、こう書けばピンとくるかも。
水・金・地・火・木・土・天・海・冥
そう、太陽に近い方から惑星を並べた順番だ。
しかし残念ながら9番目の「冥」に当たる冥王星は、2006年に太陽系の惑星から外されてしまった。
※現在の冥王星は「準惑星」。
2006年にチェコのプラハで開かれた国際天文学連合総会で決められた「惑星」の定義とは、
(1)太陽の周りをまわっていること
(2)十分重く、重力が強いために丸いこと
(3)その軌道周辺で群をぬいて大きく、他の同じような大きさの天体が近くに存在しないこと
冥王星は、90年代に似たような大きさの天体が周囲に1000個以上もあることがわかり、2005年には冥王星より直径が大きい天体まで発見された。
だから(3)の条件に合わないのだ。
その後、冥王星にかわる太陽系「第9惑星」は発見されていないが、以前から天王星や海王星の外側には超長周期で太陽を公転する「ニビル」や「惑星X」とも呼ばれる謎の惑星「プラネット・ナイン」があると噂されてきた。
80年代から90年代にかけて観測技術が進歩したことにより、木星や土星のような超質量の惑星は存在しないことがわかったが、2016年に米カリフォルニア工科大学のコンスタンティン・バティギン博士とマイケル・E・ブラウン博士は、数理モデルとコンピュータ・シミュレーションから、「プラネット・ナイン」が存在する可能性を示した。
●カリフォルニア工科大学の研究者がリアルな「プラネット・ナイン」の証拠を発見
2016/1/20 カリフォルニア工科大学より
バティギン博士とブラウン博士によれば、太陽系外縁天体6個の軌道から、地球質量の10倍の質量を持つ「プラネット・ナイン」が、海王星の20倍以上遠い軌道を、1万年~2万年かけて太陽のまわりを公転している可能性があるという。
そして先日、このプラネット・ナインが普通の惑星ではなく、宇宙のはじまったごくわずかな時間に生まれた「原始ブラックホール」ではないか?という研究が発表された。
●What if Planet 9 is a Primordial Black Hole?(プラネット・ナインが原始ブラックホールだとしたら?)
2019/9/24 arXivより
この論文を書いたのは、米イリノイ大学のジェームズ・アンウィン博士と英ダラム大学のヤクブ・ショルツ博士だ。
プラネット・ナインが原始ブラックホールだと仮定した場合、その質量は地球の5倍~15倍の重さに、ブラックホールの大きさにあたるシュワルツシルト半径(wiki)は4.5cm~13.5cm(直径9cm~27cm)、ソフトボール大からバスケットボールより一回り大きいぐらいの大きさになるという。
なんて小ささだ!
普通のブラックホール(というのも変だが)は寿命を迎えた恒星が自らの重力に耐え切れずどんどん小さくつぶれてしまい、中心のコアが密度無限の特異点になったものだ。
太陽程度の質量では白色矮星になる。太陽の8倍以上で中性子星に、約30倍の質量でやっとブラックホールになることができる(wiki)。
地球質量の5倍~15倍程度ではとてもブラックホールになんてなれないが、アンウィン博士とショルツ博士が提案しているのは、宇宙の最初から存在している「原始ブラックホール」だ。
「原始ブラックホール(wiki)」とは寿命を迎えた星がつぶれたものではなく、宇宙がはじまって数秒以内の高温高圧の状態で大きな密度の揺らぎが生まれ、その領域が重力崩壊を起こして誕生したブラックホールだ。
宇宙のはじめから存在しているので、バスケットボール大でも現在の宇宙に存在することができる。
ただしあまりにも小さい原始ブラックホールはホーキング放射でやがて蒸発してしまう。
現在まで生き残るには1015g以上(地球質量は5.974 ×1024kg)の質量が必要だ。
いやいやそれでもそんなに小さくては、とても地球から観測なんてできないじゃないか。
そもそも原始ブラックホール自体が一般的な光学式の望遠鏡で見つけることが難しいのでは?
確かにそうだが、今回の論文によると、プラネット・ナインの周囲にはダークマター・ハローと呼ばれる暗黒物質が集まった輪が取り囲んでおり、その大きさは地球質量の5倍の原始ブラックホール(直径9cm)で8天文単位(約12億km)にもなるという。これは地球から土星までの距離にほぼ等しい。
研究チームは暗黒物質どうしの相互作用によってガンマ線が放射される可能性を指摘しており、今後はNASAのガンマ線宇宙望遠鏡「フェルミ」が観測した2008年からの観測データを分析して、惑星のように移動しているガンマ線源を捜索する予定だという。
プラネット・ナインが今回の論文で提示された「原始ブラックホール」としても太陽系「9番目の惑星」の条件に合うとはとても思えないが、それよりもこんな近くにブラックホールが存在することの方が重要だ。
論文によればプラネット・ナインは300~1000天文単位(450億~1500億km)の距離で太陽の周りをまわっているとされる。
この距離、光の速さならば41.6時間~138.6時間、有人飛行最高速度を誇るアポロ10号(39897km/h)で128.4年~428.1年、1976年に打ち上げられた現時点で人類史上最速の飛行物体、太陽探査機ヘリオス2(252792km/h)でも20.4年~67.9年かかる。
2017/7/20 RED Bullより
けっして身近な距離ではないが、例えばわれわれ天の川銀河の中央にあって巨大なブラックホールではないかと言われている「いて座A*(Aスター)」までは、光の速さで飛んでも2万6000年ほどかかる。
プラネット・ナインは現在の人類の科学力でもかろうじて手の届く距離にあり、それがブラックホールならば画期的な存在になるのだ。
さていよいよこのサイトのテーマ「タイムトラベル」だが、アインシュタインの一般相対性理論からブラックホールのような強い重力の星の近くにいれば、時間の流れる速さが遅くなっていく。
将来さらに高速な宇宙船を開発してプラネット・ナインに接近すれば、宇宙船の時間は地球にいるわれわれの時間より遅くなる。
※宇宙船の速度が高速であればあるほど、アインシュタインの特殊相対性理論により、都合のいいことに上乗せで時間の流れはさらに遅くなる。
ある期間プラネット・ナインの重力圏内にいてそれから圏外に脱出すると、宇宙船の時間はプラネット・ナインの近くにいた分だけ地球にいるわれわれの時間より遅くなり、未来にタイムトラベルすることができる。
例えばプラネット・ナインが地球質量の10倍の原始ブラックホールだとしたら、その近くをまわる宇宙船の時間は地球時間と比べて約1.22倍になる。
つまりプラネット・ナインの近くで1年過ごすと、地球では1年と80日ほど時間が経過しているのだ。
※プラネット・ナインの質量を59.74E24kg、最終安定円軌道をシュワルツシルト半径9cmの3倍の27cmとして計算。
CASIOより
ブラックホールを使ったタイムトラベルは映画「インターステラー」に登場するガルガンチュアのような巨大で回転しているブラックホールの方が、その強力な潮汐力でスパゲッティのように引き伸ばされることを避けられ、より安全だと言われる。
しかしそんな巨大なブラックホールのある天の川銀河の中心までにたどりつく科学力を、現在の人類は有していない。
プラネット・ナインが原始ブラックホールだとすれば、とりあえずプラネット・ナインで、「ブラックホールを使ったタイムトラベル」の基礎データを集めることができる。
タイムトラベル研究にとって、それはなんと幸運なことだろう!