●「現時点で最も実現性がありそうなタイムマシン」(2017年度物理版)

2017/5/11初稿

2017/5/15追記(※一番下に追加情報を記載しました)

 

タイムマシンイメージ

このサイトを開設してから今月でちょうど1年を迎える。

今回は1年間のまとめとして、「現時点で最も実現性がありそうなタイムマシン」(2017年度物理版)を考察してみたい。 

 

わざわざ2017年度物理版という注釈をつけているので、私の大好きなフリンジ・サイエンス(疑似科学)は置いておき、極力最新の量子論や相対性理論に基づいた、2017年の春、最も現実的なタイムマシンについて考察していく。

(フリンジ・サイエンス版も後日まとめるつもり)

 

なおこのサイトの主旨により、未来へ行くよりも難しいとされる「過去に戻るタイムマシン」を考えていく。

 

 

さて、過去へのタイムトラベルの可能性を物理を使って最初に説明したのは、数学者のクルト・ゲーデル博士だった。

ゲーデル博士は、もしこの宇宙が回転しているのなら、一般相対性理論の解として、ロケットで宇宙を一周し出発点に戻ってくると、出発時の時間よりも過去に戻ることができるという理論を1949年に発表した。

 

しかしこの宇宙は実際には、膨張はしているものの回転はしていないので、ゲーデル博士の理論は現実的ではない。

 

過去へ戻るタイムマシンの代表的な理論として、アメリカプリンストン大学のリチャード・ゴット博士が考案した「宇宙ひも」を利用したタイムマシンが有名だ。

「宇宙ひもを利用したタイムマシン」(wikiより)

 

宇宙ひもとは、宇宙の初期につくられた可能性のある「ひも状」の欠陥で、莫大な質量をもっている。宇宙ひもがある周囲の空間は莫大な質量のために大きく歪められており、歪んだ空間を超えて移動することにより、光速を超えた移動が可能になる。

 

もしこの宇宙ひもが2本あり、しかもその2本が並んで平行に遠ざかっているのならば、このひもの周囲を1周することでCTC(閉じた時間曲線)を形成することができ、過去へ戻ることができる。

 

しかし宇宙ひもの存在は仮定のものであり、しかもその2本が連動しているような状況を見つけなければならず、そんな仮定に仮定を重ねたような状況は、あまりにも非現実的だ。

 

過去へ戻るタイムマシンのもう1つの代表的な理論であり、個人的に最も気に入っているのが、アメリカの理論物理学者キップ・ソーン博士のタイムマシンだ。

ソーン博士はSF映画「インターステラー」や「コンタクト」の物理理論の監修者としても知られている。

 

このサイトでも「キップ・ソーン博士のタイムマシンが実現?(1)」で詳しく考察しているが、ドラえもんの「どこでもドア」を使って簡単に説明すると、

 

二つの離れた空間を結ぶトンネル=ワームホールでつながれた「どこでもドアA」と「どこでもドアB」を用意し、「ドアB」を光速で振動させる。 

キップ・ソーンのタイムマシン説明図(1)

 

「ドアA」の時間は普通に進むのに対し、「ドアB」の時間は特殊相対性理論により時間の進みが遅くなる。 

キップ・ソーンのタイムマシン説明図(2)

 

「ドアA」から入ったのび太が「ドアB」から出ると、そこは過去の世界。

過去へのタイムトラベルが実現する。

キップ・ソーンのタイムマシン説明図(3)

 

ただし、ソーン博士のタイムマシンを実現するためには、クリアすべき課題が3つあった。

 

・どうやってワームホールを作るのか?

 

・どうやってつくったワームホールを維持するのか?

 

・どうやって出口を光速で振動させるのか?

 

 

この課題を解決するために考えたのが「マルダセナ-サスキンド・ワームホール」の利用だ。

 

詳しくは「キップ・ソーン博士のタイムマシンが実現?(2)」をご覧いただきたいが、

 

「マルダセナ-サスキンド・ワームホール」とは、素粒子理論の専門家マルダセナ博士と、ブラックホールの専門家サスキンド博士が共同で提唱している、「量子もつれ状態にある2つのブラックホールはワームホールになる」という仮説である。

 

量子もつれ状態にある2つのブラックホールの間には無数のスパゲッティのような糸がのびており、2つのブラックホールを通ってそれぞれがホーキング放射につながっている。

 

一方のブラックホールに飲み込まれた粒子Aの情報は、ホーキング放射によって漏れ出るとともに、もつれ状態のもう一方のブラックホールからも放射されるという。

マルダセナ-サスキンド・ワームホール

そして、この「マルダセナ-サスキンド・ワームホール」と、カー・ブラックホールから作り出した裸の特異点を組み合わせてみる。

 

まず2つのブラックホールの裸になった「特異点A」と「特異点B」を量子もつれ状態にし、「特異点A」の正のCTC(閉じた時間曲線)に沿ってターゲットを回転させる(未来なら順回転、過去なら逆回転)。

「マルダセナ-サスキンド・ワームホール」を使ったタイムマシン解説(1)

 

回転方向と回転数によってタイムトラベルの時間を調整し、もつれ状態の「特異点B」からターゲットの情報を過去(または未来)で取り出す。

「マルダセナ-サスキンド・ワームホール」を使ったタイムマシン解説(2)

 

取り出した情報をもとにターゲットを(クローン技術などで)再構成する。

「マルダセナ-サスキンド・ワームホール」を使ったタイムマシン解説(3)

 

この方法ならば、エキゾチック物質のようなワームホールを維持するための架空の物質を必要とせず、片方の出口を光速振動させる必要もないのでソーン博士のタイムマシンにあった課題をクリアして、過去や未来にもいくことができるタイムマシンを作ることができる。

 

ただもちろんこの方法にも課題はある。主には、

 

・カー・ブラックホールの回転スピードをあげて特異点を露出させる(裸の特異点を作る)ことが現在の技術では不可能。

 

・裸の特異点をつくったとしても、2つの特異点同士を量子もつれ状態にする方法が現在の技術では不可能。

 

・取り出した情報を元に(クローン技術などによって)肉体を再構成することが現在の技術では不可能。

 

そして、最大の欠点が、これは過去に戻るタイムマシン理論のほとんどに共通することだが、タイムマシンの完成より前の時間に戻ることはできない。

 

さて、このサイトでは「世界で最初にタイムマシンをつくりそうな男」で、もう1つのタイムマシンを紹介している。

 

コネチカット大学のロナルド・L・マレット博士が考案した、高出力レーザーを用いたタイムマシンである。

 

強い重力があると一般相対性理論によって時空が曲がり、重力レンズ効果で光も曲がることが知られているが、逆の作用で曲がった光は周囲の時空をゆがめる。

光自体に質量はないがエネルギーはあるので、そのエネルギーを積み上げていけば時空を歪めることができ、擬似的なブラックホールを形成し、その境界面にそって情報をのせた粒子を放り込めば、情報を未来から過去へ送信することができるという。

 

具体的には、強力なレーザー光線がミラーに反射されてループし続ける装置をつくり、その装置をたくさん積みかさねて周囲の時空を歪め、CTC(閉じた時間曲線)をつくる。

マレット博士のタイムマシン

 

マレット博士のタイムマシンでは人間サイズのような物質を送ることはできないものの、現在の技術でも作成可能な点が大きなメリットだ。

実際にマレット博士は素粒子を過去に送る実験を行っているという。

 

ただマレット博士のタイムマシンもソーン博士のタイムマシンと同様、マシンの完成より前の時間に送ることはできない。

 

ではこの課題をクリアするにはどうすればいいか?

 

そこで思いついたのが、未来人の知恵を利用することである。

 

まずマレット博士のタイムマシンを「未来からの情報を受信するだけのタイムマシン」として完成させる。

例えばバチカンにあったという過去を見ることができるタイムマシン「クロノバイザー」にちなんで、「クロノレシーバー」というネーミングはどうだろう?

 

クロノレシーバーを完成させ、素粒子に乗せて過去に情報を送れる技術が完成するまで稼動させ続ける。

クロノレシーバーのイメージ
クロノレシーバーのイメージ

やがて数10年いや、数100年先かもしれないが、われわれの子孫の未来人が「マルダセナ-サスキンド・ワームホール」を利用したタイムマシンの課題をクリアする技術を完成させるかもしれない。

その技術を情報をクロノレシーバーで過去に送ってもらい、受信した現在で情報を元にタイムマシンを組み立てるのである。

 

未来では、今までに考察してきたタイムマシン理論を凌駕する新しい理論によって、タイムマシンが完成する以前の時間へ戻る方法が発見させているかもしれない。

 

いつやってくるともわからない未来人のタイムマシン情報をクロノレシーバーで待ち続けるという非常に消極的な方法だが、2017年の春時点ではこれが、私の考える「最も実現性がありそうな過去へ戻るタイムマシンを作る方法」である。

 

 

<付記>

「ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く」で有名なアメリカハーバード大学の理論物理学者リサ・ランドール博士は最新著書「ダークマターと恐竜絶滅 新理論で宇宙の謎に迫る」の中で、新しい物理モデルをつくるときに考えるべき基本ルールを次のように書いている。

 

・物質や力や空間についての既存の理論を利用したり拡張したモデルであること。

 

・できるだけ倹約的で、予測力のあるモデルであること(浮動的要素が少ないこと)。

 

・検証可能な予測を示すことで、他の仮説と明確に区別されるようなモデルであること。

 

・そのモデルの構成要素が既存のモデルと結びついていること。

 

・既知の実験結果や観測結果と整合すること(たった1つの矛盾があれば、そのモデルは却下されるべきである)。

 

今回は「最も実現性がありそうなタイムマシン」の物理版ということで、ランドール博士の基本ルールにできる限りそったつもりだが(あまり倹約的ではないが)いかがだろう?

 

 

<5/15追記>

物理理論に基づくタイムマシンを考えた場合の障害となる課題について、進展があったので追記する。

 

 

●【エキゾチック物質】

「エキゾチック物質」とは、キップ・ソーン博士のタイムマシンのようなワームホールを作る場合に必要な負の質量をもつ物質である。

 

「エキゾチック物質」に関しては、5月13日のカラパイアに下記のようなタイトルで記事が掲載された。

 

●あり得るのか?物理学者が負の質量をもつ液体の生成に成功(米研究)

2017/5/13 カラパイヤより

 

ワシントン大学の研究チームは、レーザーでルビジウム原子を絶対零度近くまで冷却し、ボース=アインシュタイン凝縮を作りだした。これは「超流動」と呼ばれる量子効果が巨視的に現れる状態だ。

そして、さらに別のレーザーを当てて「超流動」状態を脱出させようと試みたところ、ルビジウム原子はまるで質量がマイナスであるかのように反対方向に飛び出した。

それはルビジウムが見えない壁にぶつかって後ろ向きに加速したようだったという。

 

 

●【裸の特異点】

「裸の特異点」とは「マルダセナ-サスキンド・ワームホール」を使ったタイムマシンに必要な回転するブラックホールのスピン速度を上げていった場合に現れるとされる、事象の地平面に囲まれていないむき出しの特異点である。

 

「裸の特異点」に関しては、少し古くなるが2016年2月22日のWIREDに下記のような記事が掲載されていた。

 

●「5次元ブラックホール」により、一般相対性理論は破綻するだろう

ケンブリッジ大学などの研究チームが、アインシュタインの一般相対性理論を破綻させるというリング状のブラックホールのシミュレーションに成功したという。

5次元以上の宇宙でしか存在しえないとしながらも、物質密度が無限大でありながら外側から観測ができてしまう「裸の特異点」の出現につながるとしている。

 

 

もちろんこれらの研究によって、ただちに「エキゾチック物質」や「裸の特異点」を製造が可能になるわけではない。

今後もさまざまな実験や検証を重ねながら、少しずつ解明されていくのだろう。

 

 

でも数十年前はSFでしか語られなかったものが、実際に実験やシミュレーションの舞台まであがってきたことには「いつかはタイムマシンも・・・」と胸がワクワクしてしまう。