●「光の新たな特性がタイムトラベルの可能性を広げる?」(光渦の自己トルク)

2019/7/28

 

光渦イメージ

 

最近「光の新しい特性」に関するとても興味深い研究が発表された。

 

●【ガチ】光の新しい性質「自己トルク」が発見される! 研究者も驚愕、光の速度が変化して”クロワッサン”に!?

2019/7/10 トカナより

 

簡単に内容を説明すると、

 

「光渦」(ひかりうず)という光の渦を、角運動量の違いで2種類作ってぶつけたところ、いままで時間変化しなかったドーナツ型の光渦が、時間で角運動量が変化するクロワッサンのような形になったという発見だ。

 

これだけでは何のことかさっぱりわからない。

 

まず光渦(wiki)から紹介したい。

 

1992年にアメリカの物理学者のL・アレン博士たちが特殊なプレートなどを使って渦巻きのように回転して進む光を作り出した。

 

光渦に関しては北海道大学の光量子物理学研究所のサイトがとてもわかりやすい。

 

下記の図は北海道大学のサイトを参考に私(BTTP)が作成した通常の光(レーザービーム)と光渦ビームの違いだ。 

通常のビームと光渦ビームの違い

光はスピンという角運動量(回転する自転のような運動)を持っている。光渦はそれに加え、太陽の周囲を地球がまわるのような公転運動を持つ。この公転運動を「軌道角運動量」(OAM)(wiki)と呼ぶ。

 

さらに光渦はドーナツのように真ん中に穴が開いていて、この穴は光の強度が0の「位相特異点」と呼ばれる。

 

光渦の姿と軌道角運動量のイメージを動画にしてみた。

光渦のイメージ(北海道大学光量子物理学研究所のサイトを参考にBTTPが作成)
光渦のイメージ(北海道大学光量子物理学研究所のサイトを参考にBTTPが作成)

 

さらに光渦の「軌道角運動量」は、回転の向きが時計回りや反時計回りに変化したり、回転が整数倍に変化する。

光渦の「軌道角運動量」の特徴(軌道角運動量wikiより)
光渦の「軌道角運動量」の特徴(軌道角運動量wikiより)

 

しかし上の図を見てもらえればわかるように、時間の経過によって形は変化しない。つまり時間が経過してもその角運動量は変わらない。

 

今回スペインのサラマンカ大学と米コロラド大学の共同研究チームによって発見された「光渦の新しい特性」は、軌道角運動量が異なる2つの光渦をぶつけたところ、単体では時間変化しない光渦ビームが、時間変化するビームになったというのだ。

 

●時間変移軌道角運動量を持つ極端紫外線ビームの発生

ローラ・レゴ、ケルビン・M・ドーニー、ネイサン・J・ブルックス他

2019/6/28 サイエンスより

 

まるで光渦ビーム自身が「ねじる力(トルク)」を生み出したように見えることから、「自己トルク」と名付けられた。

光渦の自己トルク発生の仕組み

※極端紫外線(EUV)とは、極端に波長の短い(13.5nm)の光。

 

ちなみに光渦や今回の発見が今後どのように応用できるのかだが、

 

例えば、レーザービームで微粒子を操作する光ピンセット技術において、微粒子に光渦の軌道角運動量を与えて微粒子を回転させたり、軌道角運動量が整数倍に変化することから、光データ通信において、情報を光の偏光・波長に加えて軌道角運動量に変換させることで、さらに高速・長距離通信が期待されている。

 

 

【タイムトラベルへの応用】

さて私が光渦も含めた今回の「光の新しい特性」に注目したのは、以下の3つの理由からだ。

 

(1)光渦の位相特異点とブラックホールの特異点の類似

 

(2)自己トルクによる光の速度の変化

 

(3)マレット博士のタイムマシン理論への応用

 

 

(1)光渦の位相特異点とブラックホールの特異点の類似

これは見比べていただければわかりやすい。 

ブラックホールの画像(EHT Collaborationより)
ブラックホールの画像(EHT Collaborationより)

こちらは今年の4月に公開された、はじめて撮影に成功したブラックホールの画像だ。

 

いままで紹介してきた光渦のイメージとよく似ている。しかも、どちらも中心部に特異点をもつ。

※ブラックホールの特異点は実際に観測することはできず、中央の黒い部分(事象の地平面)の奥深くに隠されている。

 

 

 (2)自己トルクによる光の速度の変化

今回の発見から軌道角運動量が時間の経過で変化(自己トルク)することがわかった。

 

位置(r)における運動量を(p)rpのなす角を(θ)とすると、質点の角運動量(L)は、 L  = r p sinθ で表せる。

 

運動量(p)質量(m)× 速度(v)だから、 L = r(mv)sinθ、より L = m r(v)sinθで、つまり(軌道)角運動量が時間変化することは、光の速度が時間変化するということだ。

 

 

 (3)マレット博士のタイムマシン理論への応用

アメリカのコネチカット大学のマレット博士一般相対性理論を利用して「リングレーザー」という光を周回的に曲げて情報を過去へタイムトラベルさせるという研究を行っている。

※下記の記事を参照。

 

●「世界で最初にタイムマシンをつくりそうな男」(マレットのタイムマシン)

 

「一般相対性理論」はアインシュタインが特殊相対性理論の10年後に完成させた、空間の歪みが重力を生み出すという「重力」の理論だ。

 

これは実際に観測によって正しく、巨大な天体の質量の影響で歪んだ時空を、光が通貨することで曲がってしまう「重力レンズ」などが代表的な例だ。

 

マレット博士によれば、この逆の発想も可能で、曲がった光は時空を歪めるという。

 

しかしマレット博士の研究を他の物理学者が検証したところ、理論的には間違っていないが、彼のタイムマシンを実現させるためには宇宙規模の実験装置が必要だ。

※下記の記事を参照。

 

●「ワームホールが現実になる日」(CTC)

 

だから、マレット博士のタイムマシンを実現させるのはほぼ不可能だと思っていた。

 

ところが(2)の結果から、光渦の自己トルクによって光の速度が時間変化した。

 

その理由は、もしかしたらマレット博士の言うように、光渦のような曲がった光、とくに中心の位相特異点で「時空」が歪んでいるからではないか?

 

アインシュタインによれば「時空」つまり空間と時間は切り離せないものだ。

 

空間が歪めば時間が歪む。時空が歪んでいるせいで、この宇宙で(特殊相対性理論より)唯一変化しない光の速度が変化したのではないか?

 

だとしたら複数の「軌道角運動量」の異なる光渦の組み合わせ方次第で、重力レンズのように強力に時空を曲げ、タイムマシンの鍵となる「閉じた時間曲線(CTC)」を作り出すことができるかもしれない。

 

今後の光渦と自己トルクの研究に期待したい。