●「パラレルワールドはあります!(3)」(量子マルチバースの展望)

2017/8/18

 

ドラゴンボールイメージ

今回のトップ画は7つの「ドラゴンボール」をイメージした。

なぜこの写真を選んだかは、熱心な「ドラゴンボール」ファンでなければわからないと思うので、最後の解説をご覧いただきたい。

 

さて前回は、究極のパラレルワールド理論として、日経サイエンス2017年9月号に掲載された、カリフォルニア大学バークレー校の物理学者、野村泰紀教授が研究している「量子マルチバース」の概念を解説した。

 

今回はその実証可能性と、「量子マルチバース」から導かれる時間の驚くべき姿を探っていこう。

 

 

●量子マルチバースは実証可能なのか?

「パラレルワールドはあります!(1)」でも紹介しているが、パラレルワールド(マルチバース)の研究を否定する人の意見として「それぞれの宇宙は相互作用できないので、理論として実証性がない」というのがある。

 

しかし野村教授はこの意見に対して、新たな可能性を示した。

 

この宇宙で「負の確率」が観測されれば「量子マルチバース」は実証されるという。

 

そもそも「負の確率」とは何なのか?

 

宇宙マイクロ波背景放射(CMB)は、宇宙誕生の初期に放たれた光がマイクロ波として現在の宇宙の全方向に観測されるもので、高温だった宇宙が膨張につれて冷えていったというビッグバン理論の証拠ともなっている(JAXA宇宙情報センター「宇宙背景放射」より)。

 

このCMBを調べると、われわれの宇宙は平坦だということがわかった。

 

宇宙が平坦であれば、2つの地点を移動する光の道筋は直線である。だが「負の曲率」があると、重力がなくても曲線をたどるようになる。

 

図1 平坦な宇宙と負の曲率の宇宙
図1 平坦な宇宙と負の曲率の宇宙

 

量子マルチバースから導かれる宇宙は、「宇宙の地平」の外部の観測者から見ると有限だが、内部の観測者から見ると無限に大きい。

図2 外側から見ると有限だが、内側から見ると無限
図2 外側から見ると有限だが、内側から見ると無限

 

これは空間が負の曲率をもっているからだ。

 

現在この宇宙は平坦とされているが、遠い宇宙からの光がどのように曲がるのかを調べる「宇宙の曲率」の観測精度は、今後数十年で2ケタほど向上すると考えられている。

そのときに少しでも負の曲率が観測されれば、確率空間にあるという「量子マルチバース」が実証されるだろう。

 

さらに野村教授は、この宇宙と他の宇宙が衝突した痕跡が観測できる可能性もあると言っている。

 

 

●時間の本質とマルチバースの量子状態

野村教授らの最新の研究によって「量子マルチバース」は厳格に定義された確率を含んでいなければならず、この制約によってマルチバース全体の量子状態を決定できる見込みが出てきたそうだ。

このことは、マルチバース全体の量子量が静的な可能性を示唆している。

 

例えば、マルチバースの中にいる観測者から見て、あらたな泡宇宙が常に生まれ続けていても、マルチバースの外側にいる観測者から見れば、マルチバース全体の量子状態は変わらないというのだ。

※図2で示した「宇宙の地平」の中から見れば空間は無限に見えても、外から見れば有限だというのに似ている。

図3 マルチバース全体の量子状態は変わらない
図3 マルチバース全体の量子状態は変わらない

 

これは次の驚くべき可能性を導く。

 

宇宙の中にいる私たちの知覚が時とともに変化していくこと、つまり「時間」の概念は幻にすぎず、「時間」は、もっと根源的なものから生まれる「創発的な概念」の可能性があるのだ。

 

「時間」はマルチバースのそれぞれの局所的な枝の中にだけあるもの、つまりそれぞれの「宇宙の地平」の中においてのみ存在するのかもしれない。

図4 時間はマルチバースの枝の中にのみ存在する概念か?
図4 時間はマルチバースの枝の中にのみ存在する概念か?

 

ここからは私の私見だが、この概念をベースにすれば、「異なる時間軸のパラレルワールドへの移動」でタイムトラベルすることが実現できる。

 

パラレルワールドの中にはわれわれの宇宙とよく似ており(ビッグバンの起きたタイミングの違いなどで)われわれとは異なる時間軸で成長してきた宇宙があるかもしれない。

図5 100年前の過去の世界へタイムトラベル
図5 100年前の過去の世界へタイムトラベル

 

例えば図5の宇宙Aと宇宙Bは非常によく似ているが、宇宙Aは宇宙Bの100年前に誕生しており、それぞれの宇宙の時間軸は100年ずれているとする。

何らかの方法で宇宙Aから宇宙Bに移動することができれば、100年前の世界に移動したことになる。

 

異なる宇宙間は相互作用できないが、映画「インターステラー」 リサ・ランドール教授の著者「ワープする宇宙」で示されたとおり、唯一「重力」だけが異なる宇宙間の往来を可能にする。

どうにかしてわれれわの身体あるいは精神を重力子に変換し、時間軸の異なる宇宙に移動することができれば、タイムトラベルが実現するのだ。

 

さて、最後になぜ今回のトップ画にドラゴンボールを選んだのかというと、最新作のアニメ「ドラゴンボール超(スーパー)」でパラレルワールド(マルチバース)が登場するからだ。※アニメでは12個の宇宙(マルチバース)があると描かれている。

 

「ドラゴンボール」のような人気アニメにも登場するぐらいパラレルワールド(マルチバース)は身近になっているが、いまだにSFの中だけの存在だと思っている方もいる。

 

そんな方には野村教授の次の言葉を聞いてほしい。

 

「マルチバースは突飛な考えだと思う人もいますが、むしろ宇宙だけは現在僕らが観測しているものしかないと思うほうが革命的なのです」(日経サイエンス2017年9月号47Pより)