2022/4/9
今回は「情報には質量がある」という実験から、意識や魂の重さについて考察する。
●Youtube動画はこちら↓
このサイトのテーマの1つ、タイムリープは「意識が体を離れて、過去や未来に時間移動する現象」だ。
でも、このとき移動する意識とは、何なのだろうか?
体と切り離されても存在できるのだろうか?
いまだその答えは出ていない。ただ「意識」を「魂」と言い換えて「魂が実際に存在するのか?」、その重さを実験で調べた医師がいる。
1901年、アメリカ・マサチューセッツ州のダンカン・マクドゥーガル医師は、死期のせまった患者の亡くなる前後の体重の変化を記録し、魂の重さを測定する実験を行った。
6人の被験者にこの実験を行い、1人目は、確かに21g体重の減少が記録された。
その後も最大で31g、最小で10gほどの減少が見られた。
マクドゥーガル医師は同じ実験を15匹の犬でも行い、犬の場合は死亡前後で体重の減少が見られなかった。
この結果から、マクドゥーガル医師は、魂は犬には存在せず、人間だけに存在するものと推測した。
しかし、この実験を1907年に新聞や雑誌に発表したとたん、ずさんな測定方法や標本数の少なさからたくさんの批判を受けてしまった。
現在マクドゥーガル医師の研究は、ほぼ否定されている。
しかし、本当に魂に重さはないのだろうか?
今回、熱力学の観点から考察していく。
唐突だが「熱い」とか「冷たい」という現象について、本当の意味をご存じだろうか?
「熱い」とか「冷たい」という「温度」は、実は、空気の分子が「どれだけ早く動いているか」、その運動の度合だ。
熱い空気の分子は速く動き、冷たい空気の分子の動きは遅い。
そして、熱い分子と冷たい分子が衝突すると、お互いの速度をやりとりして、速度の差が小さくなる。
それを何万回も繰り返すと、最終的には分子全体の速度が均一・・・つまり温度が同じになる。
この温度の仕組みについて、19世紀の中頃まではよくわかっていなかった。
1877年に、オーストリアの物理学者、ボルツマン博士がこの仕組みを「S=k log W」という数式で示した。ちなみにこの式には「ΔS≧0」という前提条件がある。
この数式を簡単に説明すると、左辺のSは「エントロピー」という物理量で、簡単にいえば「乱雑さ」や「散らかり具合」のことだ。
われわれの世界では、物事は秩序のある状態から、放っておくと、秩序のない状態に変化していく。
整理された部屋は放っておくだんだんと散らかっていく。しかしその逆、散らかった部屋がかってに片付くことはない。
この一方通行の方向性を「エントロピーが増大する」と言い、「ΔS≧0」のSはマイナスにはならない、つまり「エントロピーが減少することはない」ことを示している。
ちなみにボルツマンの原理とよばれる「S=k log W」の右辺のkは、ボルツマン定数と呼ばれる定数で、Wは散らかり具合の状態数(パターンの数)、これが対数logで掛けられている。
つまりこの式は、エントロピーは状態数によってだんだん増えていくという意味である。
「エントロピーの増大」は「熱力学第二法則」と呼ばれ、熱い空気が放っておくと冷たくなるという一方通行の方向性も説明する。冷たい空気がかってに熱くなることはない。
※ちなみに熱力学第一法則はエネルギー保存の法則。
当たりまえといえば当たりまえに思えるが、どうしてエントロピーは増大するのだろうか?
エントロピーが減少することはないのか?
この疑問に対し、ある科学者が有名なパラドックスを考えた。
電磁方程式を導いたことで有名なイギリスの天才物理学者、ジェームズ・クラーク・マクスウェル博士は、この「熱力学第二法則をなんとか破ることはできないか」と考えた。
そこで、同じ温度で保たれた2つの部屋があり、その部屋を仕切る壁に特殊能力で自由に穴を開けたり閉じたりできる悪魔を仮定した。
この悪魔にはもう1つ特殊能力があり、分子の速さが見える。
部屋が暖かいということはつまり部屋の中の空気の分子が速く運動しているということで、逆に寒いということは分子の速度が遅いということだ。
この悪魔は特殊能力を使って、速い分子を左の部屋へ、遅い分子を右の部屋へ、穴を自由に開閉させることで集めていく。
すると左の部屋はどんどん暖かくなり、右の部屋はどんどん冷えていく。
悪魔は、分子自体にはさわっていないのに、しだいに2つの部屋の乱雑さが整理されていく。
つまりこれは、かってに起こらないとされたエントロピーが減少、つまり「熱力学第二法則を破るのではないか?」というのがマクスウェル博士の考えた「マクスウェルの悪魔」というパラドックスだ。
マクスウェル博士の考案した「マクスウェルの悪魔」を退治する方法は、さまざまな科学者が研究を重ねたものの、なかなか見つけられなかった。
しかし1961年、アメリカの大手コンピューター企業、IBMの研究者だったロルフ・ランダウアー博士が、やっとその手がかりを発見した。
ランダウアー博士は、このままコンピューターが進化していけば、いずれどんな限界を迎えるのかを考えた際、このままどんどんコンピューターが小さくなっていくと、エネルギーが0でもプログラムは動くことがわかった。
ここでさっきの温度の正体が関係してくる。空気中の分子は、絶対零度でなければ、たえず運動している。
※空気中の微粒子も、これらの分子に衝突されて不規則に動かされる。このような微粒子の運動を「ブラウン運動」と呼ぶ。
これを動力に使って、ランダムに動くプログラムを考えた。
すると、確かにエネルギーがなくても、コンピューターはプログラムを実行し、やがて答えを出す。
ただ、このコンピューターには大きな欠陥があり、答えが出るまで、ものすごく時間がかかる。
なぜなら動力源がランダムな分子の動きなので、常にプログラムが前に進むとは限らない。逆に後ろに進むこともあり、1歩進んで2歩下がるということが起きる。
これを防ぐ方法は、後戻りさせないために、メモリをいったん消去すればいい。前の状態に戻らないようにメモリを消すのだ。
これでうんと速く答えが出せるようになった。ただ、この消去のときに、どうしてもエネルギーを消費する。つまり情報を消去するために、けっきょくエントロピーは増大するのだ。
この仕組みを「ランダウアーの原理」と呼び、この原理によって長年のパラドックスだったマクスウェルの悪魔は退治された。
2010年、中央大学と東京大学の研究チームによって、この「ランダウアーの原理」は実際に実験で確かめられた。
これは情報が、エネルギーに変換できることを意味する。
ただ今回メインで紹介したい実験は、イギリスのポーツマス大学のメルビン・ボプソン博士が発表した研究で、情報はさらに質量をもつという実験だ。
さきほどのランダウア―の原理によって、情報はエネルギーをもつことがわかった。
このサイトで何回も紹介しているアインシュタイン博士の特殊相対性理論(E=mc^2)によれば、エネルギーは質量に変換することが可能だ。
つまり0や1といったデジタル情報もエネルギーをもち、エネルギーをもつということはその情報に質量が存在するということだ。
ボプソン博士は2022年3月に発表した論文で、この情報のもつ質量を、実際に観測するための手段を考案した。
「電子」がその反物質「陽電子」と衝突すると、共に消滅して、お互いが持っていた質量がすべてエネルギーとして放出される「対消滅」が発生する。
でももし、この電子や陽電子の情報に質量がある場合、既存のガンマ線のエネルギー放出(a)に加えて、追加の情報分の、赤外線のエネルギー放出(b)が観測されるのだ。
つまり、追加の赤外線のエネルギー(ν-,ν+)が、情報の重さになる。
ボプソン博士は実際に電子に含まれる情報の質量を計算して、電子の質量の2200万分の1と予測している。
具体的な情報の質量を計算で示したことは画期的だ。
実際にこの値の赤外線エネルギーが観測されたら、情報にも重さがあることが証明される。
ボプソン博士は論文の中で、さらにすごい発言をしている。
情報に質量があることがわかれば、固体、液体、気体、プラズマに続く、物質の5番目の形態の可能性がある。
しかもこれは、宇宙の物質の85%を占め、銀河がバラバラにならないようにつなぎとめている未発見の物質、ダークマター(暗黒物質)の有力な候補になる。
さらに博士は2020年の論文で、われわれの作り出すデジタルコンテンツの情報がこのまま毎年20%増えていくと、これから350年以内に、情報の質量が地球の質量を超えてしまうだろうと予測している。
そして、この実験がどのように「魂の重さ」と関係するのか?
「この世界は仮想現実」("私"という意識の正体)で紹介しているニューヨーク大学のデイビッド・チャーマーズ博士は、この世界の根源的なものは情報で、情報から僕たちの意識や物質が作られていくという「情報の二相理論」を提唱している。
この世界の根源的なものが情報で、それに質量があるということは、情報から作られる「意識」、つまり「魂」にも質量があるということだ。
もしかしたら近い将来、われわれの意識の重さが、正確に計測できる日がやってくるかもしれない。