2017/4/7
2021/8/25一部修正
前回に引き続き、マルダセナ-サスキンド・ワームホール仮説を利用して、今最も現実的な過去へのタイムトラベルを可能にする「キップ・ソーン博士のタイムマシン」の実現に向けた考察を進めていく。
前回でもご紹介した通り、キップ・ソーン博士のタイムマシンを実現するためには、クリアすべき課題が3つあった。
(1)どうやってワームホールを作るのか?
(2)どうやってつくったワームホールを維持するのか?
(3)どうやって出口を光速で振動させるのか?
まず(1)の「どうやってワームホールを作るのか?」だが、一般的にワームホールは、何でも飲み込む「ブラックホール」と、アインシュタインの一般相対性理論によって時間方向に反転させた何でも吐き出す「ホワイトホール」を結ぶトンネルのようなものだと説明される。
だがこのホワイトホールが曲者で、数学的な可能性としてはありうるが、ブラックホールのように実際に天体として存在するかについては否定的な意見が多い(「ホワイトホール」wikiより)。
また、たとえブラックホールとホワイトホールを結ぶことができたとしても、それが可能なのは極めて小さな量子論的サイズに限定される。
(JAXA宇宙情報センター「ホワイトホール」と「ワームホール」より)
だがキップ・ソーン博士は映画「コンタクト
(字幕版)」 の原作者カール・セーガンに相談されて、実際に宇宙船が通行可能なワームホールを検討した結果、「もし負のエネルギーをもつ物質が存在するならば、アインシュタイン方程式の解としてワームホールが存在する」可能性を示唆した。
この物質は「エキゾチック物質」と呼ばれ、負のエネルギー(エネルギーは質量と等価なので負の質量ともいえる)をもったエキゾチック物質をトンネル内に満たすことで、量子サイズのワームホールを宇宙船が通過可能なマクロサイズに拡大させることができ、プラスの質量をもつ宇宙船が突入しても、マイナスの質量と均衡して、トンネルがつぶれることなく通過可能だという。
とすれば(2)の「どうやってつくったワームホールを維持するのか?」の答えは「エキゾチック物質をワームホール内に補充し続ければよい」となるのだが、そもそもこの「エキゾチック物質」なるもの自体が仮想粒子でいまだ見つかっておらず、ワームホールを維持していくためには中性子星の中心部ほどの高密度な存在を前提とし、まったく現実的ではない。
したがって今までは、ソーン博士のタイムマシンの要となるワームホールの(1)と(2)の課題をクリアすることは難しかった。
しかしマルダセナ-サスキンド・ワームホールは違う。
(1)(2)の課題をクリアする大きな可能性を秘めている。
可能性の根源は、マルダセナ-サスキンド・ワームホールの2つのブラックーホールを結びつけているのが「トンネル」(時空の歪み)ではなく「見えないひも」(量子もつれ)だということだ。
2つのブラックホールはこの「見えないひも」によって量子もつれ状態にあり、ブラックホールAに飲み込まれた物質Aは、ホーキング放射によってブラックホールBから物質Bとして吐き出される。
この動作は「瞬間」であり、飲み込まれた物質Aと吐き出された物質Bは同一である。
つまりこれは量子テレポーテーションと呼ばれる瞬間移動なのである。
ただし、このままだと物質A(物質B)はタイムトラベルしたことにはならない。
そして残る課題(3)「どうやって出口を光速で振動させるのか?」もある。
これを解決するために「ジョン・タイターのタイムマシン解説(1)」で紹介したカー・ブラックホールに登場してもらう。
カー・ブラックホールとは、ニュージーランドの数学者ロイ・カーが発表したリング状の特異点をもつ高速で回転するブラックホールで、世界で最も有名な未来人「ジョン・タイター」のタイムマシン原理もカー・ブラックホールを利用していると言われている。
カー・ブラックホールは通常のブラックホールと同様に、中心に密度が無限となる恐ろしい特異点をもっているが、高速で回転しているためで遠心力で特異点がリング状に広がっている。
通常の特異点に飲み込まれればバラバラに破壊されてしまうが、リングの端ににぶつからないように上手にリングの真ん中に突入すると、そこは負のCTC領域(負の閉じた時間曲線/Closed Timelike Curve)であり、リングの中心を通り抜けて、回転軸の周りを回転方向に回ると過去にさかのぼることができると考えられている。
さらにカー・ブラックホールに電荷を加えるとカー=ニューマン・ブラックホールとなり、正のCTC領域が追加される。
カー=ニューマン・ブラックホールでは、リング状の特異点の中央をわざわざ通り抜けなくても、正のCTC領域を回転軸と逆方向に回転すれば、過去にさかのぼることができる。
カー・ブラックホール(やカー=ニューマン・ブラックホール)は、突入したら2度と引き返すことのできない一方通行の地平面を2つ(外部地平面と内部地平面)もっているが、ブラックホールの回転スピードをあげていくとこの2つの地平面が接近していき、ついには1つとなり(超極限のカー・ブラックホール)、さらに回転スピードをあげると地平面は消え去り、リング状の特異点が露出する。
この状態を「裸の特異点」と呼び、わざわざ危険を犯してブラックホールに突入しなくとも正のCTC領域を順方向に回転することで未来へ、逆方向に回転することで過去へのタイムトラベルが可能になる。
従って(3)の「どうやって出口を光速で振動させるのか?」を考えることなくタイムトラベルが実現できる。
それではいよいよ「マルダセナ-サスキンド・ワームホール」と「カー・ブラックホール」をコラボさせたタイムトラベルを解説する。
「ジョン・タイターのタイムマシン解説(2)」でも紹介したが、ジョンタイターのタイムマシン原理図では、中央に特異点らしきものが2つ描かれている。
(2)「特異点A」の正のCTC領域(時間の環)に沿ってターゲットを回転させる(未来なら順回転、過去なら逆回転)。
(3)回転方向と回転数によってタイムトラベルの時間を調整し、量子もつれ状態の「特異点B」からターゲットの情報を過去(または未来)で取り出す。
(4)取り出した情報をもとにターゲットを(クローン技術などで)再構成する。
お気付きの方もいるだろうが、(2)の段階でターゲットを回転させる際に(速度と重力にもよるが)生身の体だと耐えられそうにない。
また(4)でさらっと書いているが、人間をタイムトラベルさせようとすれば実質クローンを再生することになる。
すると(2)の時点でターゲットが運よく生き残ったとすれば、同じ人間が現在とタイムトラベル先の過去や未来に2人いることになってしまう。
従って(2)の時点で、残酷なようだがいったん情報になってもらった方がよいのかもしれない。
検討すべきことはたくさんあるが、以前ジョン・タイターのタイムマシンを考察をした際「裸の特異点」を利用したタイムトラベル仮説を考えたものの、どうしてもワームホールを解決できずにつまずいた。
マルダセナ-サスキンド・ワームホールを利用することで「キップ・ソーン博士のタイムマシン」の実現、さらには「ジョン・タイターのタイムマシン」の完成にも1歩踏み出すことができたと思う。
しかし、同時に疑問が一つ浮かび上がってくる。
私はイタリア国営テレビの取材を根拠として、ジョン・タイターの物語は創作だと思っていた。(下記参照)
しかし今回の考察でそれが本当にわからなくなった。
彼はもしかしたら、ホンモノの・・・・・・結論は、まだ出せない。