●「現時点で過去を変えることができそうなタイムマシン」(2018年度物理版)

2018/7/12

 

タイムマシンイメージ

「もしもタイムトラベルができたら?」という質問に対して、「過去に戻って失敗や後悔をやり直したい」と答える人は多いだろう。

 

このサイトの目標も、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー (字幕版)」のように「過去へ戻り、過去の歴史を改変して、その影響を受けた元の未来に戻ってくる」というタイムトラベル理論を見つけることだ。

 

年に1回のペースで、その時点で最も実現性がありそうなタイムマシンを紹介しているが、2018年はこの目標に近づくためのタイムトラベル理論を最新の物理学で考えてみた。

※2017年度版はこちら→「現時点で最も実現性がありそうなタイムマシン」(2017年度物理版)

 

 

さて、この理論は「過去をやり直してその影響を受けた元の世界に戻ってくることのできるタイムトラベル」だが名前が長すぎるので、重力と量子力学を統一する「究極理論(Theory of Everything)」(wiki)になぞらえて「究極のタイムトラベル理論」と呼ぶことにする。

 

でもタイムトラベルを研究すればするほど、この実現がどれほど難しいか痛感させられた。

  

主な理由あげると、

 

(1)過去に戻ること自体が難しい

光速度に近づくことよって時間を遅らせ、未来へタイムトラベルすることは可能だが、ホーキング博士の「時間順序保護仮説」をはじめ、過去へのタイムトラベルを否定する科学者は多い。※詳しくは「ホーキング博士とタイムトラベル」を参照

 

 

(2)過去へのタイムトラベルにつきまとう「タイムパラドックス」を解決しなければならない

 

代表的な2つは、

 

(a)「親殺しのパラドックス」

過去にタイムトラベルして、あなたが生まれる前にママを殺す。

 ↓

あなたは生まれてこないが、それではママを殺すことができない。

だからママは生き残り、あなたは生まれる。

 ↓

あなたは成長すると過去にタイムトラベルしてあなたが生まれる前にママを殺す。

・・・これが無限ループになる。      

 

(b)「情報起源のパラドックス」

あなたは自宅の倉庫に眠っていた古い書物の中からタイムマシンの設計図を発見する。

 ↓

その設計図をもとにタイムマシンを開発し、過去にタイムトラベルして過去の自分にタイムマシンの設計図を渡す。

 ↓

過去のあなたはその設計図を元にタイムマシンを発明し、設計図を自宅の倉庫にしまう。

 ↓

タイムマシンの設計図を描いたのは誰か?

 

 

(3)過去改変によって新たな歴史が生まれる

過去を変えた時点で新たな未来が生まれ、歴史が分岐する。そのまま未来に帰ると改変の影響を受けた先の未来に行ってしまう。その未来はあなたが元いた世界とはまったく別の未来だ。

 

 

タイムマシンが登場するアニメや映画では、過去に戻り初恋の人と仲良くなるように歴史を操作して、戻った未来で初恋の人を奥さんにしたり、未来で歴代宝くじの当選番号データを入手し、過去に戻って1等の当選くじを買い、未来に戻ったら大金持ち!のようなストーリーが簡単に語られるが、これを矛盾なく説明するのはとても難しい。

 

いままでにたくさんのタイムトラベルの事例や理論を研究してきたが、この「究極のタイムトラベル」を実現している理論はなかなか見かけない。

 

 

でもとうとう可能性のある理論を思いついてしまった。

 

きっかけはホーキング博士の最後の論文だ。さっそくどんな理論か説明しよう。

 

 

この「究極のタイムトラベル理論」には2種類のタイムマシンを使う。

 

1つは「裸の特異点をつくってそれを維持し続けるタイムマシン」だ。

これを「Sタイムマシン(Singularity time machine)」と呼ぶことにする。

 

もう1つは「この宇宙と別の宇宙を結ぶワームホールをつくるタイムマシン」だ。

これを「Wタイムマシン(Wormhole time machine)」とする。

 

 

●Sタイムマシン

これは「裸の特異点」をつくって維持するマシンだ。

 

「特異点」とはブラックホールの中心にあると考えられている密度が無限大になり計算不能となるポイントで、この特異点は通常「事象の地平面」という境界に包まれており、触れることはおろか観測することさえできない。

※観測しようにも光でさえその境界を越えて戻ってくることができない。

 

「裸の特異点」はこの「特異点」が「事象の地平面」に包まれていない状態のもので、カー・ブラックホールという回転するブラックホールの回転速度をあげていくと、事象の地平面がはがれて特異点が露出すると考えられている。

※詳しくは「キップ・ソーン博士のタイムマシンが実現?(2)」を参照。

 

この「裸の特異点」は時空をつらぬいて存在し、中に入ったものは空間と時間を超越する。

異なる次元からの観測による見え方の違い

われわれ4次元時空の住人がこの裸の特異点を観測できたとしても3次元の球体にしか見えないが、われわれの宇宙を外側から見ることのできる5次元人がいたとすれば、裸の特異点は頭としっぽが丸まった細長いソーセージのように見えるはずだ。

 

さて裸の特異点を維持するタイムマシンが完成したら、次はもつれた量子ペアの準備だ。

 

量子エンタングルメントと呼ばれるもつれ状態の量子ペアは、どんなに距離がはなれていても、片方の量子の状態が決まるともう一方の量子の状態が定まる。この現象は量子テレポーテーションと呼ばれ、距離とともに時間をも超越して瞬時に伝わる。

 

この量子テレポーテーションを使って、

Sタイムマシン
Sタイムマシン

2020年にSタイムマシンを研究所に設置し、もつれた量子ペアAA'を用意する。

 

10年後の2030年に科学者は情報を乗せたもつれペアの片割れA'を裸の特異点に放り込む(ことを約束する)。

 

2020年でもう一方のAを放り込むと量子の状態が確定され、2030年の情報を2020年で取り出すことができる。

 

Sタイムマシンは未来から過去へ情報を送るタイムマシンとして機能する。

 

 

●Wタイムマシン

これは「時間順序保護仮説」の影響を受けず、タイムパラドックスを避けることのできる「バース・シフト」という別の宇宙へ移動するためのマシンだ。※詳しくは「ホーキング博士とタイムトラベル」を参照

 

ホーキング博士の最後の論文で提言された「ホーキング・ハートグ仮説」によれば、宇宙のはじまりに起こった永久インフレーションによって生まれるマルチバース(多元宇宙)は、さまざまな宇宙法則をもったバラエティ豊かな無限個の宇宙になると考えられてきたが、そうではなく、生まれてくる宇宙は似たり寄ったりの有限個な宇宙になるという。

 

その中からわれわれの歴史とよく似た宇宙をみつけて、われわれの宇宙より相対的に過去を進む宇宙へ移動すれば「過去」へ、相対的に未来を進む宇宙へ移動すれば「未来」へタイムトラベルすることができる。

Wタイムマシン
Wタイムマシン

これは縦x・横y・高さzの3次元+1次元の時間t4次元時空と、「別宇宙への次元w」を加えた5次元の時空間移動だ。

 

この移動を実現するためにはそれぞれの宇宙にワームホールという橋を渡してやればよい。Wタイムマシンはそれぞれの宇宙にワームホールのゲートをつくるためのマシンだ。

 

 

さて準備は整った。SタイムマシンWタイムマシンを組み合わせた究極のタイムトラベルを説明しよう。

 

 

●究極のタイムトラベル理論

複雑なのでイラストにしてみた。

 

究極のタイムトラベル理論

2つのよく似た歴史をもつ宇宙A宇宙Bがある。それぞれの宇宙には同じように地球があり、同じように「あなた」が暮らしている。

 

ただし1つだけ違いがあり、それぞれの宇宙は相対的に10年ずれた歴史を歩んでいる。宇宙Aは宇宙Bより10年未来を進んでいたとしよう。

 

あなたは2050年宇宙Aの地球に住む50歳の科学者aだ。あなたはある目的で過去を改変するためにWタイムマシンを開発して宇宙Bに移動する。

 

あなたがたどりついた先の宇宙B2040年だ。あなたは2040年に住んでいる自分にそっくりな40歳の科学者bに会いにいく。

 

bは驚くが、科学者なのでaの主旨を理解し、bが以前に開発していたSタイムマシンを使ってある情報を10年前の2030年に送る。

 

2030年宇宙Bで情報を受け取った30歳の科学者bはその情報を元にWタイムマシンを開発して、宇宙Aに移動する。このとき宇宙A2040年だ。

 

2040年の宇宙に移動したbはそこに住む自分にそっくりな40歳の科学者aを探して、なんとa殺害する。

 

 

2050年の科学者aは上で紹介した「親殺しのパラドックス」を回避できるか(この場合は親ではなく本人だが)実験をしたのだ。

※仮説を検証するためにこんなばかげたことをする人はいないので、これはあくまで思考実験だ。

 

 

さて、2040年の宇宙Aで2030年の宇宙Bからやってきたbがaを殺害した瞬間に何が起こるか?

 

2050年のaは消えてしまうはずだ。

 

しかしbはあたりまえのように生きている。宇宙Bから来たbは姿かたちはaと同じでも、まったく別の人間なのだ。

 

つまり「親殺しのパラドックス」は回避された。

aの真の目的は「親殺しのパラドックス」を回避しながらも過去の歴史を改変して、その影響を受けた元の未来に戻ることが可能なのか検証することだったのだ。

 

例えば科学者aの依頼が殺人ではなく、宝くじの当選番号を教えることならば、B宇宙の科学者bが過去のA宇宙に住む科学者aに当選番号を教えてaがそのくじを買った瞬間、未来のaは大金を手に入れているだろう。

 

 

・・・だが、これを思いついてからしばらくたったころ、次の疑問がわいた。

 

この実験を最初に思いついて実行したのは誰だ?

 

さっきのイラストを逆からたどってみよう。

情報起源のパラドックスが発生

①2030年宇宙Bに住む科学者b(30歳)は、10年先の未来から届いた情報を元にWタイムマシンを開発して2040年宇宙Aに行き、自分とそっくりな科学者a(40歳)を殺した。

 ↓

2030年のbにSタイムマシンで情報を送ったのは2040年宇宙Bに住むb(40歳)だが、彼にそれを依頼したのは2050年宇宙AからWタイムマシンでやってきたa(50歳)だ。

 ↓

でもa(50歳)は10年前、異なる宇宙Bからやってきたbに殺されている。だから存在しないはずだ。

 ↓

でも2050年の宇宙Aからやってきたa(50歳)に指示されなければ、2040年の宇宙Bに住むb(40歳)は10年前のb(30歳)にSタイムマシンでWタイムマシンの設計図とa(40歳)の暗殺依頼は送らないはずだ。

 

暗殺依頼を出したのは誰だ?

 

つまりこの2つのタイムマシンを組み合わせたタイムトラベルでは、「親殺しのパラドックス」は回避できても、「情報起源のパラドックス」は解決できないのだ。

 

 

やはり「究極のタイムトラベル」への道は険しい。

 

いつかきっと「究極のタイムトラベル理論」にたどり着くために、これからもタイムマシンやタイムトラベルの研究を続けていきたい。