2020/10/00
先月、ついにタイムトラベルの矛盾「タイムパラドックス」の解決方法を数学的に証明したという論文が発表された!
オーストラリア・クイーンズランド大学の学生と教授による共同研究だ。
といっても「タイムトラベル」に関心のない方は「なにそれ?」だろう。
でも、こう説明したら興味がわかないだろうか?
長年謎だったドラえもんの「セワシ君問題」がついに解明されるかも!
ところで・・・セワシ君って誰?
そんなヤボな質問をつぶやいたあなた。
セワシ君(wiki)とは、「ドラえもん」の第1話に登場した、22世紀の未来からドラえもんを連れて20世紀ののび太の部屋にやってきた、のび太の孫の孫だ。
のび太が将来会社経営に失敗して作った借金で、22世紀になってもセワシ君の家は超貧乏。そんな不幸な未来を変えるために、ダメな先祖の世話係としてドラえもんを送り込んだのだ。
ドラえもんがのび太といっしょに暮らすきっかけを作った、ストーリーの重要人物だ。
そのセワシ君がのび太に語ったタイムトラベルの仕組みが、以前から議論になっている。
「セワシ君問題」(アンサイクロペディアより)だ。
もともとセワシ君はのび太とジャイ子(ジャイアンの妹)との間に産まれた子供の子孫だ。ところがドラえもんがのび太と暮らすようになって歴史が変わり、現在の未来では、のび太はしずかちゃんと結婚することになっている。
ええええ!
先祖の母親が変わってしまったら、子孫であるセワシ君の存在が消えてしまわないか?
でもセワシ君によれば「大丈夫」という。
「ジャイ子から結婚相手がしずかちゃんになったとき、君(セワシ)は生まれるのか?」というのび太の質問に対して、
「東京から大阪まで行くのに、いろいろな乗り物を使ったり道筋をたどったとしても、方角(方向)さえ正しければたどりつける」
とセワシ君は答えた。
※漫画「ドラえもん」第1巻参照
正直わかったようなわからないような説明だ。
漫画を読んだ当時、私は「そもそも結婚相手が違うのなら遺伝子が違うのだから、セワシ君が生まれてくるはずないじゃん」と思った。
だが今回、オーストラリア・クイーンズランド大学の学生サンジェルマン・トバール氏とその指導教授ファビオ・コスタ博士が学術誌「Classical and Quantum Gravity」に発表した「Reversible dynamics with closed time-like curves and freedom of choice(閉じた時間の輪と選択の自由を備えた可逆的力学)」を基にすれば、「セワシ君問題」の答えも見えてくるかもしれない。
この論文は、長年のタイムトラベルの課題だった「親殺しのパラドックス」という矛盾を数学的に解決したというのだ。
もとの論文にはもちろんたくさんの数式が使われているが、わかりやすさ優先で、論文の図だけを使って説明していく。
※元の論文はこちらを参照。
その前に、次の2つを前提として紹介する。
過去へのタイムトラベルによって引き起こされる矛盾「親殺しのパラドックス」と、「CTC(閉じた時間の輪)」だ。
「grandfather paradox(祖父のパラドックス)」や「consistency paradoxes(一貫性のパラドックス)」とも呼ばれる。
私の大好きなSF映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー 」を例に説明すると、
マーティが過去にタイムトラベルして、自分が生まれる前にパパを殺す。
↓
マーティも生まれないことになってしまうが、それではパパを殺すことができない。
だからパパは生き残り、マーティは生まれる。
↓
マーティは成長すると過去にタイムトラベルして自分が生まれる前にパパを殺す。
これが無限ループになる。
「CTC(Closed Timelike Curve)」とは、過去と未来がループ上につながった「閉じた時間の輪」だ。
CTCがつくられると時間の未来と過去がつながってしまい、未来へ進んでいたのにいつの間にか過去に戻ってしまう。
アインシュタインの相対性理論では、時間と空間を同じように「時空」としてとらえるが、その関係性を説明するのに「光円錐」という下記の図が使われる。
「光円錐」とは両サイドを光の「世界線(光の時空上の軌跡)」にはさまれた円錐で、下半分の円錐「過去領域」から、上半分の円錐「未来領域」へ、「時間」を表す軸線が中央を貫いている。
この光円錐が何らか(ものすごく強い重力の影響など)の要因で傾くと、
未来から出発したのに、いつの間にか過去へと戻ってしまう、閉じた時間の輪「CTC」ができる。
今回の論文は、この「CTC」を利用したタイムトラベルを前提としている
それではタイムトラベルにおける矛盾「親殺しのパラドックス」を解決をした論文を解説していこう。
まずわれわれの世界では、原因となる「過去」の出来事があり、その結果として「未来」の出来事が起こる。
いわゆる「因果関係」だ。
この因果関係を、論文では次のように表現している。
ここでさきほど説明したCTCが登場する。
CTCが存在するなら、未来に進んでいたのにいつの間にか過去に戻って来てしまう。
未来の結果の次に過去の結果が現れる、因果関係の順番が狂ってしまった世界だ。
ある粒子がこのCTCを進む、さまざまな「世界線(WL)」が存在したとする。
「世界線」はある粒子の通る軌跡だが、わかりにくければ、アニメ「シュタインズ・ゲート」で使われている「パラレルワールド的な意味」でとらえてもいい。
例えば、WL1がのび太がジャイ子と結婚した世界線、WL2がジャイ子と結婚した世界線というようなイメージだ。
ただしそれぞれの世界線は独立しており、通常は交わることはない(歴史を変えることはできない)。
例えば2020年度のノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズ博士は、何らかの物理法則によって、宇宙を検閲する何者かが存在するかのように歴史の改変が禁止されるという「宇宙検閲官仮説」を提唱している。
それぞれの世界線をタイムトラベルする粒子を動画にすると、
つまり、これまでの理論では、ジャイ子と結婚するWL1から、しずかちゃんと結婚するWL2に乗り換えることは、何らかの物理法則によって禁止されていると考えられていた。
しかし今回の論文の中で、トバール氏とコスタ博士はこれを可能にする関数を導き出した。
2人はこの関数を「プロセス関数(W)」と呼んでおり、プロセス関数内で各世界線の因果は相互依存している。つまり1つ違うことをすると他の世界線がすべて連動して切り替わる。
通常それぞれの粒子はそれぞれの世界線を独立して進むが、
ある粒子がタイムトラベルの途中で違う世界線に進むと、
他の粒子も連動して世界線が切り替わる。
粒子をタイムトラベラーだとすれば、ある人物が歴史を変更すると、他の世界線の歴史もつじつまが合うように変化する。
「プロセス関数」がわかりにくければ、この「つじつま合わせ」を、現代の医者が幕末の江戸へタイムスリップするドラマ「JIN-仁- 」に登場する「歴史の修正力」に言い換えればわかりやすい。
それではこの変更が加えられた世界線を粒子が進むとどうなるか、動画にしてみた。
つまり、プロセス関数Wでタイムトラベラーは歴史を変化させることができるが、結局は元の結果にもどってくる。
「過去に戻って親を殺しても、(歴史のつじつまが合わされ)タイムトラベラーは元の世界で生まれてくる」、つまり、過去で歴史に変更を加えても、けっきょく最終的に歴史は変わらないのだ。
「セワシ君問題」の答えは、この論文によると、のび太がジャイ子ではなくしずかちゃんと結婚しても、プロセス関数によって帳尻が合わされ(どこかの段階でジャイ子の遺伝子が入り)、セワシが生まれてくるという。