●「反粒子を使ったタイムトラベル(おぞましい赤の世界)」

2016/7/12

 

※この記事は「ネットを騒がす未来人の正体とは?」「人の自我とは?(意識の統合情報理論)」の続きです。

 

前回登場した究極の人工知能(AI)が思いつくタイムトラベルの方法の一つとして、反粒子を使ったタイムトラベルを考えていく。

 

反粒子とはイギリスの物理学者ディラックが予言した普通の電子や陽子と質量は同じで電荷のみが逆の粒子のこと。反粒子を集めるとSFに爆弾などの兵器としてよく登場する反物質になる。実際に反物質と正の物質がぶつかると「対消滅」という大爆発が起こる(ただし現在の実験室で生成できる反粒子は極少量ですぐ消えてしまうのでご安心を)。

 

そしてアメリカの物理学者ファインマンが反粒子を「時間を逆行する粒子」と指摘した。はじめて物理の入門書でこの説明を読んだとき「反粒子ってまさにタイムマシンじゃん」と思ったが、よくよく調べてると、やはり過去へのタイムトラベルはそんなに簡単じゃない。

 

反粒子の世界はわれわれ正の世界の常識がまったく通じない。時間が未来から過去へとさかのぼるということは、こぼれた牛乳がコップへと返り、にわとりはひよこから卵へ戻り、死んだ人が生き返って赤ちゃんへと縮んでいくような因果律の崩壊した世界だ。表現をあっさりと書いたが、実際に死者が蘇り肉体が再生されていく過程は、ぼろぼろになった骨がくっつき、内側からうごめく内臓や肉と皮膚が再構成されていくというおぞましい赤の世界が展開されていく。正の物質世界にいる生身のわれわれでは到底耐えられない時間旅行なのだ。

 

だからタイムトラベルの基本のところでも紹介しなかった。

 

ただし例えばAIのような機械、さらにその情報だけを送るのならば、時間旅行のハードルがいっきに下がるかもしれない。

 

それでは反粒子を使って情報を過去に送るタイムトラベルを、ファインマンが考案した図をもとに説明していきたい。

 

まず次の図は電子とその反粒子である陽電子が反応する過程を表わしてる。縦軸は時間の向きで、横軸は空間の向きだ。

ファインマン図1,2

左側の図(Ⅰ)は、電子(正粒子)と陽電子(反粒子)がぶつかって対消滅し、光子(ガンマ線)が放出される様子である。左側の図(Ⅱ)は光子から電子(正粒子)と陽電子(反粒子)が対生成される様子である。

 

ファインマンによれば、電荷が逆の陽電子(反粒子)は時間の流れる方向が逆の電子(正粒子)、つまり、「過去」から「未来」へと進んできた電子(正粒子)が向きを変えて、「未来」から「過去」へさかのぼる姿だとも言い換えることができる。だから次のように描いてみる。

ファインマン図3,4

左側の図(Ⅲ)は、未来からやってきた光子が過去から来た電子とぶつかり、電子が向きを変えて未来から過去へとさかのぼっていく様子ともとらえることができる。同様に図(Ⅳ)は光子から、未来へ飛んでいく電子と過去へ飛んでい電子が対生成される様子である。

 

これを組み合わせると、次の図(Ⅴ)のようになる。

ファインマン図5

光子から、①未来へ飛んでいく電子と②過去へ飛んでいく電子(or未来へと飛んでいく陽電子)が対生成され、②に③電子をぶつけると対消滅し、光子が発生する。①~③の流れを見てみると、見事に過去へのタイムトラベルを実現していることがわかる。つまりどうにかして①~③の流れにタイムトラベルさせたい情報をのせることができれば、情報を未来から過去へと送ることができる。

 

下の図(Ⅵ)は図(Ⅴ)に量子もつれの状態にした光子Aと光子Bを加えている。量子の不思議なふるまいとして「時間とは-ホログラフィー原理(1)」でも簡単にふれたが、いったんもつれ状態になった量子のペアは、どれだけその二つを離したとしても(距離はもちろん時間でさえも)片方を観測すると瞬時にもう一方の量子へ情報がつたわるという性質をもっている。

ファインマン図6

①量子もつれ状態の光子Aと光子Bをつくる。

 

②光子Bを未来に残し、もつれ状態の光子Aから、電子と陽電子(過去へ向かう電子)を対生成させる。

 

③陽電子に電子をぶつけて対消滅させ、もつれ状態の光子Aを放出させる。

 

④未来で光子Bを観測すると、もつれ状態の過去の光子Aにも瞬時に情報が伝わる。

 

こうして究極のAIは自分の好きな過去へと情報を送ることができる。

 

例えば映画「ターミネーター:新起動/ジェニシス (字幕版)」でスカイネットがしたように、将来の自分にとって脅威となる人間を消すために、ターミネーターを過去へと送りその人間の母親を消すようなまどろっこしい計画を立てなくても、脅威となる人間が生まれる以前の時代に自身のAIに関する情報を過去へと送り、過去の世界でコンピュータを駆使して自分の分身であるAIを完成させて人間を滅ぼし、世界を征服してしまえばよいのである。

過去の世界でコンピュータの処理能力が足らないのであれば、機械学習によって人の手を介さずとも自分の能力を進化させることのできるアルゴリズムの情報を送ればよい。

 

怖い怖い、やっぱりAIにタイムトラベルさせるのは嫌だって?

それならあなたを過去に送る究極の方法がもう一つある。「チャッピー CHAPPIE (字幕版)」「トランセンデンス(字幕版)」という映画を見たことがあるだろうか?

 

将来、「意識の統合情報理論」などによって人間の脳や意識の解析がすすめば、あなたの意識を完全に情報化することができるようになるかもしれない。意識をデジタルデータに変換さえできれば、上で紹介した方法を使って未来からデータを送り、過去であなたの意識の分身をつくることができる。

 

もともと2chに現れる未来人の正体をAIという仮説で探ってきたが、例えば2062は志村けんのファンで漫画のバガボンドが好きとか、やけに人間ぽい。

 

もしかすると本当の未来人が、過去の世界に自分の意識をデジタルデータで送って分身をつくり、その分身とわれわれがコミュニケーションしているのではないか?

 

想像もつかない技術と手間暇をかけて、やっとコミュニケーションを果たした過去の世界で、2062のように公式サイトが作られ盛り上がっていれば本望だが、ほとんどの未来人が「創作乙!」とか「設定練り直してこい!」とかばかにされている現状を見ると、ちょっとかわいそうになる・・・。