2016/10/28初稿
2020/8/26更新
いまさらながらのジョン・タイターである(wiki)。
このサイトはタイムトラベルが最大のテーマなのだから、タイムトラベラーとしては最も有名なこの人物をなぜもっと早く取り上げなかったのか?
実はジョン・タイターの物語がどうも創作らしいからだ。その最大の根拠が以下の動画だ。
時間のある方は動画をご覧いただきたいが、内容を要約すると、イタリア国営テレビがアメリカに出張取材し探偵を雇って現地調査した結果、ジョン・タイター財団の顧問弁護士であるラリー・ハーバー弁護士のでっちあげである疑いが濃厚との結論にいたった。
科学的知識は彼の弟が提供しているそうで、ジョン・タイターの書籍などの権利もすべてこの弁護士が所有しているそうだ。
つまりジョン・タイターはハーバー氏というのだ。
このサイトでは基本的に対象のケースが事実であるという肯定的スタンスで、どんな仕組みでその現象が起こったのか?を考察しているが、この動画を見ると少し興醒めしてしまう。
今年(2016年)の夏、大々的に公式サイトを立ち上げた未来人2062(今は音声データを1万円で売っている)とどこか同じ匂いがする。
やはりお金がらみの気配を感じると、夢のあるオカルト話もとたんに胡散臭くなる。
※この感想は初代2062ではなく、2016年当時、音声データを販売していた人物に対して。
ただジョン・タイターのタイムマシンは「カー・ニューマン・ブラックホール」を使っており、そのタイムトラベル理論は、当時のアメリカの物理学者たちが、その正しさを根拠にタイターの話を信じたのもわかるほど、かなり綿密に作り上げられている。
まず「カー・ニューマン・ブラックホール」の前身である「カー・ブラックホール」(wiki)から解説する。
カー・ブラックホールとは、1963年にニュージーランドの数学者ロイ・カー博士が発表した、リング状の特異点をもつ、高速で回転するブラックホールだ。
カー・ブラックホールは質量と角運動量(回転する運動量)の2つの特性をもち、強大な重力が局所的に集中して回転している。
だから、例えば宇宙船がカー・ブラックホールに近づいていくと、ブラックホールの中心からの重力を受けると同時に、回転の渦によって横方向からも力を受ける。
宇宙船が同じ位置に留まりたいなら、回転と反対方向にロケットを噴射しなければならない。
さらにブラックホールに近づいていくと、どんなにロケットを噴射しても、渦の勢いが強すぎて同じ場所に留まれなくなる限界に達する。これを「静止限界」と呼ぶ。
静止限界を超えると渦に押し流されて、宇宙船はカー・ブラックホールの周囲を回り続けるが、光でさえも抜け出せない「事象の地平面」よりは手前なので、なんとかがんばれば、ブラックホールから離脱することができる。事象の地平面と静止限界に囲まれた範囲を「エルゴ領域」と呼ぶ。
宇宙船がエルゴ領域を進んでいくと、やがて事象の地平面に到達する。カー・ブラックホールでは、この後戻り不可能な境界が2つ存在する(外部地平面と内部地平面) 。
宇宙船がこの2つの地平面を越えてさらに進むと、通常であれば密度が無限の「特異点」にぶつかり、宇宙船はこなごなに破壊されてしまう。
しかしカー・ブラックホールは回転の遠心力のために特異点がリング状に広がっているため、リングの端にぶつからずに、うまくリングの真ん中に突入すると、特異点を避けられる。
リングを通り抜けた先は、重力が負になっていると考えられている。つまり、ブラックホールの中心に達するまでは、引っ張られる力を受けていたが、中心を通り抜けると、ブラックホールから反発する力を受けるようになる。
この反発する力をもつブラックホールを「ホワイトホール」と呼ぶ。つまりカー・ブラックホールは、ほかの宇宙とホワイトホールでつながっている可能性がある。
なおリング状の特異点の内側には、CTC(閉じた時間の輪/Closed Timelike Curve)が生じているとも考えられている。
ロイ・カー博士が回転するブラックホールの解を発表してから2年後、米ピッツバーグのエズラ・ニューマン博士とその同僚が、電荷を持ち回転するブラックホールの解を発表した。
「カー・ニューマン・ブラックホール」(wiki)と呼ばれる。
カー・ニューマン・ブラックホールは、質量と角運動量(回転する運動量)と電荷の3つの特性をもっている。
質量が角運動量と電荷を足したものより大きい場合は、2つの一方通行の境界(外部地平面と内部地平面)が存在する。
しかし回転するスピードが増大するか電荷が大きくなるにつれて、2つの境界がしだいに接近し、
質量=角運動量+電荷になったとき2つの境界は融合する。
このように、ブラックホールの質量と、角運動量+電荷が釣り合っている状態を「極限ブラックホール」(wiki)という。
角運動量と電荷がさらに増大し質量を超えると、一方通行の境界は消失し、リング状の特異点が露出する。
角運動量と電荷が質量を超えて露出した状態を「裸の特異点」という。
この状態になると、リングのすぐ近くにCTC(閉じた時間の輪)が現れる。
CTCに沿って進んでいくと、未来に向かって進んでいたのに、いつの間にか過去にたどり着いてしまう。
だから、わざわざ危険を犯してブラックホールの事象の地平面を超えて特異点のリングの中心に突っ込まなくても、裸の特異点のまわりのCTCを進んでいくことで、過去にタイムトラベルできる。
ただし、裸の特異点がが現れると、一般相対性理論が破綻してしまい、論理的に因果関係を予測することができなくなる。
ロジャー・ペンローズ博士は、自然界にはそんなものは存在しないだろうと考え、「宇宙検閲仮説」を提唱した。
通常のブラックホールの特異点は事象の地平面で囲まれているので、われわれが特異点を直接観測することはできない。
逆に特異点の影響をわれわれの宇宙は受けないので、因果関係が崩れることもない。
かのホーキング博士はかつて、キップ・ソーン博士と、「宇宙検閲仮説は守られるのか?」について賭けをしたが、シミュレーションの結果で裸の特異点が存在する可能性があることがわかり、負けを認めている。
スイスのジュネーヴにあるCERNの大型加速器LHCは、人工のマイクロブラックホールを製造できる可能性を秘めている。
仮にLHCでマイクロブラックホールがつくられても、ホーキング放射によってすぐに蒸発してしまうが、どうにかして角運動量や電荷を増大させ裸の特異点を露出することができれば、タイムマシンを実現できるかもしれない。
さて次回はカー・ニューマン・ブラックホールをもとに、ジョン・タイターのタイムマシンを解説する。