2016/10/28
いまさらながらのジョン・タイターである。
このサイトはタイムトラベルが最大のテーマなのだから、過去話題になったタイムトラベラーとしては最も有名なこの人物をなぜもっと早くに取り上げなかったのか?
実はジョン・タイターの物語がどうも創作らしいからだ。その最大の根拠が以下の動画だ。
時間のある方は動画をご覧いただきたいが、時間のない方のために簡単に内容を要約すると、イタリア国営テレビがわざわざアメリカまで出張取材し探偵を使って現地調査した結果、ジョン・タイター財団の顧問弁護士であるラリー・ハーバー弁護士のでっちあげである疑いが濃厚であるとの結論にいたった。
科学的知識は彼の弟が提供しているそうで、ジョン・タイターの書籍などの権利もすべてこの弁護士が所有しているそうだ。つまりジョン・タイターはハーバー氏であるというのだ。
このサイトでは基本的に紹介した事例が事実であるというスタンスで、どんな原理で可能なのかを考察しているが、この動画を見るとさすがに興醒めしてしまう。
今年の夏、大々的に公式サイトを立ち上げた2062の未来人(今は音声データを1万円で売っているらしい)とどこか同じ匂いがする。やはりお金がらみの気配を感じると、夢のあるオカルト話もとたんに胡散臭くなる。
ただジョン・タイターのタイムマシンはカー・ブラックホールのタイムトラベル理論に基づいており、このサイトでカー・ブラックホールを使ったタイムトラベルはまだ詳しく説明していなかった。
ジョン・タイターが語ったタイムトラベル理論に関しては、彼が登場したとき、アメリカの物理学者がその正しさを根拠に信じた人がいたのもわかるとおり、かなり綿密に作り上げられている。
ジョン・タイターのタイムトラベル理論は「新科学と健康と雑学」というサイトが詳しく、とても参考になる。
まず、カーのブラックホールとはどのようなものか?
カーのブラックホールとは、1963年にニュージーランドの数学者ロイ・カーが発表したリング状の特異点をもつ高速で回転するブラックホールである。
ブラックホールは大きな重力が局所的に集中しているので時空が歪んでいる。しかもカーのブラックホールは回転しているので、周囲の時空も引きずられて渦を巻いている。
例えば宇宙船がカー・ブラックホールに近づいていくと、ブラックホールの中心から縦方向の重力を受けると同時に時空の歪みの渦によって横方向からも力を受ける。横方向からの力によって、宇宙船はカー・ブラックホールの周囲を回転するので、同じ位置に留まりたいなら、回転と反対方向にロケットを噴射しなくてはならない。
さらにブラックホールに近づくと、どんなにロケットを噴射しても、渦の勢いが強すぎて同じ場所にとどまれなくなる限界に達する。これを静止限界と呼ぶ。
静止限界を超えると渦に押し流されて、宇宙船はカー・ブラックホールの周囲を回転するが、事象の地平面よりは手前なのでかろうじてブラックホールから離脱することができる。事象の地平面と静止限界に囲まれた範囲をエルゴ領域と呼ぶ。
宇宙船がエルゴ領域を進んでいくとやがて事象の地平面に到達する。カー・ブラックホールでこの一方通行の膜が二つ存在する(外部地平面と内部地平面) 。
宇宙船がこの後戻り不可能な二つの地平面をさらに越えて進むと、通常は密度が無限の「特異点」にぶつかり、宇宙船はこなごなに破壊されてしまう。
しかしカー・ブラックホールでは遠心力のために特異点がリング状に広がっているため、リングの端ににぶつからずに上手くリングの真ん中に突入すると、特異点をさけられる。
リングを通り抜けた先は負の時空領域となっており、重力が負になると考えられる。つまり、ブラックホールの中心に達するまでは、引っ張られる力を受けていたが、中心を通り抜けるとブラックホールから反発する力を受けるようになる。
この反発する力をもつブラックホールを「ホワイトホール」と呼ぶ。つまりカー・ブラックホールは,ほかの宇宙とホワイトホールでつながっていると考えられる。
なおリング状の特異点の内側には、負のCTL領域(負の閉じた時間の環/Closed Time Link)が生じており、リングの中心を通り抜けて、回転軸の周りを回転方向に回ると過去にさかのぼることができると考えられている。
ロイ・カーが回転するブラックホールの解を発表してから数年後、ピッツバーグのエズラ・ニューマンとその同僚が、電荷を持ち回転するブラックホールの解を発表した。カー=ニューマンのブラックホールと呼ばれ、カー・ブラックホールに正のCTL領域が追加された形となっている。
リング状特異点の内側には、正のCTL領域(正の閉じた時間の環/Closed Time Link)が存在する。カーのブラックホールには正のCTL領域は存在せず、負のCTL領域しか存在しなかった。
リング状の特異点の中央をわざわざ通り抜けなくても、正のCTL領域を回転軸と逆方向に回転すれば、過去にさかのぼることができるそうだ(未来へ行く場合は順方向に回転する)。
さてカーのブラックホールは、質量と角運動量(回転する運動量)の二つの特性をもっている。質量が角運動量より大きい場合は、二つの一方通行の膜(外部地平面と内部地平面)が存在する。
しかし回転するスピードが増大するにつれて二つの膜がしだいに接近し、
質量=角運動量になったとき二つの膜は融合する。
このように、ブラックホールの質量と角運動量が釣り合っている状態を超極限のカー・ブラックホールという。
角運動量がさらに増大し質量を超えると、一方通行の膜は消失し、リング状特異点が露出する。
このような状態になると、わざわざ危険を犯してブラックホールに突っ込まなくても正のCTL領域を回転して、未来に行ったり過去にさかのぼることができる。角運動量が質量を超えて露出した状態を「裸の特異点」という。
裸の特異点が存在すると、理論的に因果関係を予測することができなくなる。ロジャー・ペンローズは、自然界にはそんなものは存在しないだろうと考え、「宇宙検閲仮説」というものを提唱した。
通常、ブラックホールの特異点は、一方通行の膜(事象の地平面)によって囲まれており、われわれが特異点を直接観測することはできない。したがって、特異点の影響をわれわれの宇宙は受けないので、因果関係が崩れることはない。しかし、裸の特異点が現れると、密度が無限大となり一般相対性理論が破綻してしまい、理論的に因果関係を予測できなくなる。
ホーキングは、キップ・ソーンと、「宇宙検閲仮説」は守られるかどうかで賭けをしていたが、最近のシミュレーション結果では裸の特異点が存在する可能性があることがわかり、負けを認めている。
さらにCERNの大型加速器LHCでは人工のミニブラックホールを作ることができる可能性を秘めている。LHCでつくられたミニブラックホールはホーキング放射によってすぐに蒸発すると予想されるが、どうにかして角運動量を増大して裸の特異点を露出することができれば、タイムマシンを実現できる可能性がある。
さて今回のカー・ブラックホールを使ったタイムトラベルの考察を踏まえ、次回はジョン・タイターが語ったタイムマシンを解説したい。