●「現時点で実証可能性のあるタイムマシン」(2019年度物理版)

2019/8/15

 

2019年度版タイムマシン

 

このサイトでは年1回、その時点での集大成的なタイムマシンを考察している。

 

【2017年】

●「現時点で最も実現性がありそうなタイムマシン」(2017年度物理版)

 

【2018年】

●「現時点で過去を変えることができそうなタイムマシン」(2018年度物理版)

 

 

今まではこのサイトの究極の目標である「過去をやり直し、その影響を受けた未来の世界に戻ってくるタイムトラベル」の理論を中心に考えてきたが、現在のテクノロジーでは実現不可能なものばかりで、「絵にかいたモチ」だった。

 

かのホーキング博士も「ホーキング放射」や「特異点定理」などの理論を考案し、その業績を称えられてさまざな賞を受賞しているが、ノーベル賞は受賞していない。

 

ノーベル賞は「その理論が観測や実験で実証されなければならない」という暗黙のルールがあるからだ。

 

だから2019年はまず第一に「観測や実験で可能なこと」を重視し、「現時点で実証可能性のあるタイムマシン」を考えてみる。

 

 

ちょっとまった!

 

そもそも、タイムトラベル自体を実証することが難しいのではないか?

 

いやいや「時間旅行入門」でも説明している通り「未来へのタイムトラベル」は理論的にも技術的にも可能だ。

※(特殊相対性理論より)飛行機や新幹線のような速度の出る乗り物に乗ったり、(一般相対性理論より)または地上に比べて重力の小さい宇宙ステーションで過ごすことで、ほんのわずかな時間だが未来へタイムトラベルすることができる。

 

問題は「過去へのタイムトラベル」だ。

 

過去へのタイムトラベルを実証性のある理論で説明しているものは少ない。

 

例えば「世界で最初にタイムマシンをつくりそうな男」で紹介している米コネチカット大学のマレット博士「リングレーザー」があるが、これも他の研究者の検証で理論的には間違っていないものの、実現させるには宇宙規模の実験装置が必要であり、実証性はないと言われている。

 

ただしマレット博士が一般相対性理論をもとに提唱した「歪んだ時空は光を曲げる。ならば光を曲げれば時空も歪む」というアイデアはずっと気になっていた。

※光に質量はないが運動量(エネルギー運動量テンソル)があるので、一般相対性理論により理論的に時空を歪めることができる。

 

 

前置きが長くなったが、2019年の「現時点で実証可能性のあるタイムマシン」はこのアイデアと、最近発表された2つの研究成果をベースにしている。

 

 

2つの研究成果とはこのサイトでも紹介した、

 

世界初!画像にとらえられた「量子もつれ」と「ベルの不等式」の解説

 

●「光の新たな特性がタイムトラベルの可能性を広げる?」(光渦の自己トルク)

 

だ。それぞれを簡単に説明すると、

 

 

●世界初!画像にとらえられた「量子もつれ」と「ベルの不等式」の解説

 

「量子もつれ」にした2つの粒子は、どんなに遠く離しても、観測などで片方の粒子の状態が決まれば、その瞬間もう一方の粒子の状態も確定する。

 

この不思議な現象を、イギリスのグラスゴー大学の研究チームが世界ではじめて撮影に成功したのだ。

 

撮影された画像はこちらだ。

グラスゴー大学の研究論文「Imaging Bell-type nonlocal behavior」の図にBTTPが加筆

グラスゴー大学の研究論文「Imaging Bell-type nonlocal behavior」の図に私(BTTP)が加筆しているが、もつれた光を2つのルートに分け、一方を4つの角度(0°,45°,90°,135°)にフィルタリングして撮影したところ、それぞれのルートを通って同時に合わさった光は見事に円対称に相関されており、計算上でも「量子もつれ」の証明となる「ベルの不等式」を破っていた。

 

 

もう1つの研究は

 

●「光の新たな特性がタイムトラベルの可能性を広げる?」(光渦の自己トルク)

 

光はらせん状位相プレート(SPP)という特殊なプレートを通すと「光渦」(ひかりうず)と呼ばれる回転して進む光になる。

 

通常の光と光渦の違いは、

通常の光と光渦の違い

などで、特に「光渦」「軌道角運動量(OAM)」と呼ばれる特殊な運動量をもち、さらに真ん中に「位相特異点」と呼ばれる穴が開いている。

 

この「軌道角運動量(OAM)」は通常は時間の経過によって変化しないが、スペインのサラマンカ大学と米コロラド大学の共同研究チームは、異なるOAMの2つの光渦を収束させたところ、時間変化するOAMになったという研究を発表した。

 

「Generation of extreme-ultraviolet beams with time-varying orbital angular momentum」という論文の中でこの時間変化する光渦は、自らねじる力(トルク)を生み出すように見えることから「自己トルク(Self-Torque)」と名付けられた。

 

興味深いのは、軌道角運動量(OAM)が時間変化することだ。運動量は質量×速度だから、運動量が時間変化するのなら、自己トルクによって光の速度が時間変化する。

 

研究チームは論文の中で自己トルクでOAMが時間変化する理由を説明していないが、マレット博士のアイデアと合わせて考えれば、渦のように曲がった光の中央の位相特異点は時空が歪んでいるのかもしれない。

 

「時空」とは正確には「4次元時空」で、3次元の空間と1次元の時間を合わせたものだ。アインシュタインはこの2つを切り離せないものだと言っている。

 

時空が歪んでいるのならば、空間とともに時間の流れも歪んでいるはずなのだ。

 

 

今回のタイムマシンは自己トルクによって生じた時間の歪みを量子もつれの画像化によって実証しようとするものだ。

 

ここで注意したいのは、量子もつれが空間とともに時間を超える可能性だ。

 

 

オーストラリアのクイーンズランド大学の量子物理学者S.ジェイオルソン博士とティモシーC.ラルフ博士は2011年に発表した論文「Extraction of timelike entanglement from the quantum vacuum」で、あくまで「数学的には」と前置きしながらも、同じ空間位置にある2つの粒子が時間的に「もつれている」可能性を示した。

 

つまり量子もつれは空間だけでなく、時間をも超越して伝わる可能性があるのだ。

 

自己トルクで生じた時間の歪み(ずれ)量子もつれの画像のずれによって証明できるかもしれない!

 

いよいよその詳細を説明しよう。

 

 

まずあらためて異なるOAMからの自己トルクの発生を図にすると、

異なるOAMの光渦からの自己トルクの発生(「Light with a self-torque: extreme-ultraviolet beams with time-varying orbital angular momentum」の論文を元にBTTPが作成)
異なるOAMの光渦からの自己トルクの発生(「Light with a self-torque: extreme-ultraviolet beams with time-varying orbital angular momentum」の論文を元にBTTPが作成)

2枚のらせん状位相プレート(SPP)から軌道角運動量(OAM)が異なる光渦を作り、アルゴンガスジェットに収束させ、自己トルク(Self-Torque)をもつ時間変化するOAMになる。

 

 

量子もつれの画像を撮影する装置は次の通りだ。

グラスゴー大学の研究論文「Imaging Bell-type nonlocal behavior」を元にBTTPが作成。
グラスゴー大学の研究論文「Imaging Bell-type nonlocal behavior」を元にBTTPが作成。

※グラスゴー大学の研究チームも、「より画像の解像度の高めたい」という理由で、通常の光ではなく3次元的な軌道角運動量(OAM)もつ光渦を実験に使用している。

 

粒子を量子もつれにさせる装置(BBO)でもつれ状態にした光を、ねじれ状位相プレート(SPP)光渦にし、分光器(BS)で2つのルートに分ける。

 

一方のルートは単一のフィルター(SLM1)で位相を変えずに進むが、もう一方のルートは通過の際に4種類の角度(0°,45°,90°,135°)に位相変化させるフィルター(SLM2)を通し、さらに複数のミラーで時間遅延させる。

 

位相を変えずに進むSLM1のルートには単一の光子(1ピクセル当たり1光子)の画像を撮影するためのSPADという検出器を設置し、2つのルートを通った光子を超高感度(ICCD)カメラで同時に撮影する。

 

 

この2つの研究を組み合わせた実験装置が次の図だ。

異なるOAMの自己トルクと量子もつれによるタイムマシン実験装置
異なるOAMの自己トルクと量子もつれによるタイムマシン実験装置

2つのBBOで量子もつれにした光をSPP1SPP2で異なるOAMの光渦を発生させる。

 

OAM=1の光渦はさらにBSで分岐された後、まっすぐに進むSLM1と4種類の角度(0°,45°,90°,135°)に位相変化させるSLM2に分け、さらに複数のミラーで時間遅延させる。

 

OAM=2の光渦もBSで分岐された後、一方はまっすぐに進んできたOAM=1に収束させ単一の光子を撮影するための検出器(SPAD)に送られ、もう一方は4種にフィルタリングされ時間遅延されたOAM=1に収束させ、それぞれに発生した自己トルクを超高感度(ICCD)カメラで同時に撮影する。

 

普通ならば最初にご紹介したような4つの角度(0°,45°,90°,135°)に相関した「量子もつれ」の画像が撮影されるはずだが、この装置がうまく働けば、

位相がずれた画像

このようにそれぞれにフィルタリングされた画像がずれて撮影されるかもしれない。

 

「それがどうした?」と思われるだろうが、これは画期的なことだ。

 

例えば0°の画像を設定したはずなのに、実際に撮影されたのは45°の画像、あるいは45°の画像を撮影したはずなのに90°の画像が撮影されてしまった、というような具合になる。

 

これは自己トルクによって時間変化したOAM=1に、OAM=2が空間だけでなく時間的にも「もつれて」撮影された結果なのだ。

 

つまりこの実験装置は未来(あるいは過去)の画像を撮影できる可能性を秘めている。

 

SF好きの方ならご存知かもしれないが、未来から過去への情報通信を可能にするタイムマシンを描いたJ・P・ホーガンの名作「未来からのホットライン 」が現実になるような現象が起こるかもしれないのだ。

 

しかもそれは実験で証明可能だ

 

この実験装置を実際に制作するのにいくらかかるか試算してみたところ、総額850万円以上になってしまった。

 

だから私が個人で制作するにはハードルが高い。

 

しかし核融合炉を作った高校生や、

 

●「核融合炉を高校のときに寝室で自作したけど質問ある?」というアマチュア科学者が掲示板に降臨

2016/7/19 Gigazineより

 

自宅のリビングで粒子加速器を作った猛者もいるそうなので、

 

●「粒子加速器」を自作した猛者現る 「リビングの片隅で組み立てた」

2019/8/9 ITmedia NEWSより

 

いつかぜひトライしてみたい。

 

これをご覧の物好きな物理学者の方、ぜひ間違いの指摘、こちらへご教授いただければ幸いです。