2021/5/22
前回に続き、2000年代にネット掲示板で話題になった都市伝説「梯子の物語」を紹介する。
その前に、前回の話を簡単に。
2008年9月のある雨の夜、青年がコンビニで、岡田真澄似の紳士から不思議なメモとピアスを受け取った。
メモには暗号のような文章と、2009年1月2日に神社である女性と会い、ピアスを渡してほしいというメッセージが書かれていた。
文章の意味を知りたかった青年がメモの内容を2ちゃんねるにアップすると、掲示板の参加者からさまざまな意見が集まった。
※「梯子」とは、青年が掲示板で呼ばれていた愛称のこと。
その後、岡田真澄似の紳士のグループ、通称「岡田派」から、亡くなったはずの両親が写った写真を受け取ったり、岡田派と対立する、謎のスーツの女性に出会い、ドトールコーヒーで、今はまだ発見されていない「停点」という時間の理論を教わる。
ドトールのスーツの女性、通称「ドト子」は、ガラス板と針のような装置を使って、誰もいない空間へ、梯子を連れていった。
ドト子は「梯子が神社に行って女性に会うと、停点理論が発見されなくなり、世界が平和ではなくなるから、行かないでほしい」と頼んだ。
梯子はいろいろ迷ったあげく、唯一の肉親の妹に状況を打ち明け、2人で神社に行き、ブーツの女性の幸せを遠くから見守ることにした。
そして、運命の2009年1月2日・・・。
●動画(YouTube)はこちらから↓
梯子の手元には、ピアスはおろか、メモもなかった。
ピアスやメモを調べてもらっていた知り合いが、岡田派から何かふきこまれ、ピアスやメモを梯子から預かったまま、自分が梯子の代わりに、ブーツの女性に会おうとしていた。
以前ドト子が、「岡田派が次の候補と接触・・・」と言っていたが、それが梯子の知り合いだったのだ。
梯子は、なんとかして、彼がブーツの女性に会うのを阻止しようと思い、指示された時間「13時43分」の前に、1人で神社に行くことに決めた。
事態が変わったので、妹は家に残し、念のため友人にそばにいてもらった。
梯子が神社についたのは、13時35分。
それから、走りながら必死でブーツの女性を探し、見つけたときには、13時40分。
しかし彼女の前には、すでに知り合いが立っていた。
彼は女性にピアスを渡すと、梯子が岡田派から伝えられていた言葉を彼女に言った。
※その言葉を梯子は今まで触れておらず、掲示板上でも明かさなかった。
※誰もが閲覧可能な掲示板に書けない情報が、まだまだあるようだ。
梯子は、ブーツの女性と知り合いの間に割り込んだ。
女性は不審そうな表情になり、その場から立ち去った。
知り合いはニヤニヤ笑い、これで自分の望みが叶うと梯子に告げた。
その瞬間、梯子と知り合いは、誰もいない例の空間にいた。
そこに岡田派の一員が現れ、何か話したが、梯子は思い出せず、気がつくと、自分のアパートの前に1人立っていた。
梯子がいまにも発狂しそうな顔で自宅に戻ると、その様子を見た妹にひどく心配された。
その夜、梯子は掲示板に今の絶望している気持ちと、「最後の頼みの綱はドト子だけ」だと書き込んだ。
そして「みんなに知ってほしいから話します」と、いままで秘密にしていたことを語った。
梯子が一番つらかったのは、知り合いに裏切られた以上に、自分のせいで不幸な世界になってしまうことだった。
知り合いの暴走を防ぐことができず、ブーツの女性が会うべき人と会えなくなり、停点理論は発見されない。
ドト子の言っていた平和な優しい世界は、もう二度とやってこないのだ。
知り合いが岡田派に何を望んだのか、はっきりとは梯子もわからないが、おそらく「ある天災をなかったことにしたかったのだろう」と。
その後の噂では知り合いは、海外に行ったことになっている。
ただし、知り合いの記憶は、梯子もまわりの人たちも残っている。
ドト子が言っていた「記憶が消えていく」というのはうそだったのか・・・、あるいは、すぐでなく、少し時間がかかるのか・・・。
ブーツの女性が会うべき人に会えなかったとき、つまり今回のように岡田派のたくらみが成功したとき、世界はどうなるのか?
ドト子によれば、ブーツの女性が本来会うべきだったのは、ある男性だった。
彼女がその男性と出会えなかった場合、ごく普通の平凡な人生を歩む。
だが本来は、彼女が彼と出会ったことで、大変な生みの苦しみを味わうはずだった。
彼女が味わう苦悩や困難が、数多くの英雄や天才を生むきっかけになる。
ドト子によると、メモに書かれていた「MaryはPaper Moon・・・」の「月を踏む者」とは、「黙示録のマリア」を暗示しているそうだ。
黙示録のマリアとは、ヨハネの黙示録に出てくる、太陽をまとい、月を踏み、星の冠をかぶった天の女王で、黙示録のマリアも子を身ごもり、その子を産む痛みと苦しみのために叫ぶと書かれている。
ブーツの女性の苦しみが、やがてドイツの青年の停点理論の発見につながる。
だが、彼女が平凡な人生を送ることになると、停点理論は発見されず、世界は停点の存在に気づかないまま進んでいく。
でもいずれ、それに似た理論は生まれる。岡田派はその世界にいた。
今回の成功で、本来の世界とは切り離された世界から、彼らのもつ停点理論を使って、元の世界に干渉しようとしているという。
梯子は、ドト子や岡田派たちが、ブーツの女性に直接接触できない理由も明かした。
ドト子と岡田派はどちらも、ブーツの女性と面識があったのだ。
彼女が幼い頃からずっと、2つの組織は女性のまわりにいて、このピンポイントの時を待っていた。
切り離された世界から干渉して、岡田派がしようとしていたのは「史上最大のホロコースト」。
ドト子によれば、民族主義をかかげたいくつもの戦火が次第に広がり、ナチスがたくさんのユダヤ人を虐殺したホロコーストのようなジェノサイド、つまり国家あるいは民族の計画的な破壊が行われる。
そしてそれは「サイレントボックス」と呼ばれる。
サイレントボックスのもともとの意味は、音が外側に漏れないように、スピーカーとマイクを1つに収めて密閉した、録音用の箱だ。
梯子はサイレントボックスの具体的な内容を明かしてない。
梯子は、メモにあったジェイコブズラダー「ヤコブの梯子」についても説明している。
はじまりも終わりもない一本の歴史と平行して、世界とも歴史とも呼べないただの停点のつながりがある。
もちろんそれには、はじまりも終わりもある。
そこに何本か直角に道を作ると、梯子のように見える。それがジェイコブズラダー。
本来の世界、いわば「本流」と、岡田派の策略でできた「切り離された偽りの世界」とをつなぐ、かけ橋。
物理学でいう「アインシュタイン・ローゼン・ブリッジ」、ワームホールのようなものだと。
SFのような荒唐無稽な話だが、掲示板には、実際に神社に行き、梯子やブーツの女性を見たという書き込みがいくつかあった。
神社も、東京都杉並区にある「阿佐ヶ谷神明宮」と特定され、梯子も認めている。
もしこれらの書き込みがぜんぶ仕組まれたことなら、壮大な釣りである。
そしてこの日を境に、梯子の書き込みはぱたりと止む。
次は、10日ほど経った2009年1月14日。しかも、投稿したのは意外な人物、「妹」だった。
妹によると、梯子はあれからずっと体調をくずして寝込んでいるとのこと。
梯子はちょっと具合が良くなると、しきりに2ちゃんねるのことを気にしていた。
妹は最初ネット掲示板に偏見をもっていたが、あまりに梯子が「申し訳ない」というので、兄に内緒でこっそり、掲示板をのぞいた。
突然現れた妹に、掲示板の参加者たちは疑いの目を向け、あの手この手で梯子の妹だという証拠を求めた。
妹は、1つ1つの質問に素直に答え、その態度に参加者のほとんどが、最終的に本物の妹だと認めた。
妹によると、1月2日のあの日、本当は自分もいっしょに初詣に行くはずだったが、前日に熱を出し、連れていってもらえなかったそうだ。
「1月2日以降、何か世界が変わったと感じるか?」という質問に対して、とくに変化したとは思わない。
「亡くなったはずの両親が写った写真を見たときの気持ちは?」に対して、心臓が止まるくらいびっくりした。
「年齢は?」、今年で21歳。
「梯子が直面している不可思議な体験を告白され、どう思った?」、にわかには信じられなかったが、兄は自分に嘘をついたことがなく、少なくとも自分は兄を信じている。
「妹のためなら、梯子は世界が崩壊してもいいと言ったけど?」、本当に兄がそんなことを言ったのか? 妹が聞いていたのは、最低で卑怯なことをしようとしたとだけ。
最後に妹は、掲示板の参加者に感謝を述べて去った。
※この妹の書き込みについて、なりすまし防止のトリップも梯子のものを使っていたので、おそらく本物の妹だろうと思われる。
2ヶ月後、再び妹が梯子のトリップで書き込んだ。
それから20日ほど経った夜、ついに梯子が再び掲示板に現れた。
梯子は、前回妹が語ったとおり、1月3日以降、体調をくずして寝込んでいたが、記憶は消えてはいないという。
ただ「僕の姉はどこへ行ったんでしょうか?」という1行が、掲示板に物議をかもした。
梯子によると、岡田派やドト子の記憶もすべて残っているが、1つだけおかしいのが、いままで姉だったはずの存在が、妹に変わってしまっているのだ。
今まで梯子自身が、唯一の肉親は妹だけで、その妹を大事にしたい、幸せにしてあげたいとさんざん言ってきた。
梯子によると、その書き込みはすべて、本来は「姉」のはずだったのだ。
もちろん妹もまわりの人もすべて、最初から梯子には妹しかいなかったと言っている。
いまの妹の顔は、そっくりというわけではないけど、姉の面影はあるそうだ。
梯子が、姉が妹に変わったことに気づいたのは、はっきりとは書かれていないが、おそらく1月3日以降に寝込んだあと、目を覚ましたときだと思われる。
梯子は大切な姉が妹に変わってしまったことで卒倒し、それを見た妹は友人たちの前で号泣した。
妹の授業参観に兄が行って、恥ずかしい思いをさせたエピソードも、本来、姉が梯子の授業参観に来た話だったという。
単純に「姉」と「妹」の文字が入れ替わっただけでは、文脈まで変わってしまった。
これが、ドト子の言っていた、「未来ではなく、世界が変わる」ということなのか?
ほかにも、両親が亡くなった時期が違っていたり、幼いころの写真は元々なかったそうだが、残っているはずの中学以降の写真もなくなっていたり、細かな部分が梯子の記憶と違っている。
梯子は、最初どうしても妹のことを兄妹だと認めることができず、自分のことを心配しているような顔の妹が信用できなかった。
自分が狂ったとどうしても思えなかった梯子は、家にいることも怖かったが、ここ1カ月ほどは正常に戻ったふりをしていた。
妹が掲示板に投稿したことも気づいていて、すぐに自分が書き込むと、まわりの人たちが、またおかしくなったと騒いでしまうから控えていた。
それから梯子は、時間をあけてときどき掲示版に投稿したが、仕事もやめ、ノイローゼのようになっていた。
現実が現実で無いような、自分だけが異質な空間に迷いこんでしまったような感覚が離れず、ただひたすらに、ドト子の登場を待っていた。
しかし、いくら待ってもドト子は現れず、現在の奇妙な状況を次第に受け入れつつあり、それでまた、辛い気持ちになった。
そして、5月21日、つのる感情をおさえきれなくなった梯子は、その思いを掲示版にぶちまけた。
ドト子に、話してはダメだと言われたことを、思い出せる限り書いていった。
アメリカの大きな財団が崩壊する。
日本国内で宗教内紛があるが、そのきっかけは無血事件と呼ばれ、内紛自体も無血に終わる。
中国の政治家の台頭で、モンゴルの件が解決する。
不治の病がエイズでなくなる。
猿の細胞の研究で、今までの遺伝子解析がほぼ徒労に終わる。
豚インフルエンザなんて序の口だ。
※これは、2009年に流行した、新型インフルエンザのことだ。現在の新型コロナウイルスによるパンデミックを連想させる。
さらに梯子は、決して口外してはならないと念を押されたドト子の秘密を明かした。
ドト子の名前は「ハラマオユミ」。
※ハラが苗字で、マオユミが名前。男でも女でも通じるような名前が流行っているそう。
岡田派のグループの通称は「ネクタール」。
※犯罪者集団なのに不二家の桃ジュースみたいな名前なので、覚えやすかったそう。
ドト子に言わせると、われわれは標本であり、振り返る道。
※やはりドト子たちは、われわれの未来にいる存在に思える。
いずれ、携帯が不要な時代が来る。
脳波と感情の測定が可能になり、特定の感情にプロテクトがかけられるが、犯罪者にはそのプロテクトが許されない。
もう1つ、これは梯子自身が秘密にしていたことだが、岡田派が梯子に目をつけた明確な理由がある。
梯子の血縁から、最低最悪の犯罪者が生れる。
史上最大のホロコーストを望む岡田派たちは、あえて最低最悪の殺人鬼を生む遺伝子の可能性をもつ梯子を、神社でブーツの女性に会わせようとしたのだ。
それから停点理論をドイツの青年に発見させないようにし、似たような理論の発見のタイミングを、自分たちの都合のいいようにコントロールしようとしていた。
梯子は「姉に危害が及ばないこと」を前提に、ドト子の要求する条件を飲んだ。
ドト子は、民間企業と政府機関を使って、必ず姉を守ると約束した。
民間企業の名前はエイチエム、政府機関というのは今のEUみたいな組織。
このままだと、彼らは沈黙したままなので、秘密をばらすことで、ドト子と岡田派をあぶり出そうとした。
梯子は「ゲームの中で踊らされるのはもうごめんだ」と。
そして、次の言葉を残し、梯子は掲示板から消えた。
※日本語訳は私(BTTP)が追加。
Disclaimer?(権利放棄?)
Disclaimer.(権利放棄?)
alteration.(変更)
done.(完了)
alteration?(変更?)
good bye :)