●変化する過去と未来

2016/6/15

変化する時間イメージ

「今」を起点として過去と未来が変化することについて、まずは量子力学における時間の対称性から説明していこう。もともと量子力学は「今」から「未来」への時間の流れはもちろん、「今」から「過去」への時間の流れも禁じていない。

これはアラハノフというパレスチナ生まれの物理学者が1964年に量子力学の時間対称解釈(量子論における時間反転の対称性)として提唱した。

それからアラハノフ博士は、1988年に「弱測定」の概念を提唱した。この弱測定というのは、普通の波動関数を収縮させる(量子の重なり合った状態から、一つの状態に確定させる)観測を強い観測というのに対し、弱く観測することによって量子の重なりあった状態を壊さずに観測する方法である。具体的には得られる情報量を限りなく少なくして弱い観測を繰り返し行い、その集計結果を平均する。

この弱測定によって効果的な観測がある。ハーディーのパラドックスだ。

1992年にイギリスの物理学者ハーディーが考えた思考実験(頭の中で想像するだけの実験)で、普通は物質と反物質がぶつかると対消滅を起こして消えてしまうが、二つの入り口から入った物質と反物質(このときは電子と陽電子)が、ときと場合によってぶつかったように見えても、二つとも安全に出口を通り抜けることがあるという実験。というよりぶつかった状態と無事出口まで通り抜けた状態が重なっている感じ。まさに量子の世界だ。

この実験で物質と反物質が通る経路を弱測定を使って、重なった状態を壊さずに観測するのである。この思考実験は後に光子を使って実際の実験で検証され、経路上を弱測定を使って観測し、物質と反物質がぶつかった状態と無事通り抜けた状態が重なっていることが確認された。

ただその際非常に不可解な確率が出てきてしまった。-1という負の確率だ。

歴史上、確率が負と言うことは物理的に意味を持たないので、それは定式化がマズかったり、不完全であるために生じていると考えられる。が、次のように解釈をしてみるとどうだろう。

弱測定によって出てくる-1という確率。これが何を表すのかはわかっていない。ただ弱測定で確率1は未来の観測において起こる確率(100%)を表している。

弱測定の考え方では(奇妙だが)観測する前から未来の事象は決まっている(確率においてAという固有値を観測量が持つのであれば、まだ観測をしていない以前から、未来の観測量はAという値を持っている)。

未来の観測において固有値Aの確率を1とすると、現在の確率は0。そして-1の確率は常識的には考えられないが固有値Aと反対の観測値だから過去の観測値となる。

これはつまり"起こった"確率が100%ということになり、そんなのあたりまえじゃん、と思うかもしれないけど、「今」を起点にして考えると大きな意味をもつ。つまり「今」から見て、未来に起こる固有値Aが「起こる」確率が0~100%で変化するのに対し、過去のAという事象が「起こった」確率も0~100%で変動するのだ。

これは「今」が常に最新の起点であり、未来や過去は「今」の選択によって変化していくことを意味している。

だが常識的に考えて、「未来」はまだしも「過去」が常にころころと変わっていることなんて信じられないだろう。過去に起こった事故や災害の事実は決してなくならないし、死んだ人が蘇ったり、逆に人が勝手に消えてしまうことなんてありえない。そんなことが仮におこったら、それを体験した人はそれこそ自分が異世界に紛れ込んでしまったと思うだろう。

だが、もし過去が変わっていることに人々が気づかないのだとしたら?

次回は人の記憶について考える。