●「物理学者が実現可能なタイムマシーンの数式を思いついた!」(バブルタイムマシン)

2017/5/2

 

バブルチューブに浮かぶ時計

4月30日のスプートニクで報じられたタイムマシンに関するニュースがちょっとした話題になっている。

 

●タイムマシーン 製造を可能とする数式が編み出される

2017/4/30 スプートニク日本より

記事によると、カナダのブリティッシュコロンビア大学の物理学科がタイムマシーンを製造する数式を編み出すことに成功したという。

 

ポータルサイト「サイエンスアラート」の情報によれば、このマシーンの形は「ボックス」ないしは「バブル」のようなもので時間と空間の中で円を描いて動いている。

こうした条件でマシーンに乗った場合、過去や未来に自由に移動することができる。

 

科学者らはタイムマシーンの製造がうまくいかない原因はそれを作るための適切な素材がないことにあると指摘しており、製造に取り掛かる前に時空を越えて飛ぶことのできる素材を見つけることが先決と語っている。

 

と、情報はこれだけで、それ以上の詳細は載っていない。

 

ところが2chでも、

【科学】タイムマシーンを製造する数式を編み出すことに成功 物理学者「適切な素材が見つかれば過去や未来に自由に移動できる」

というスレが早速立ち上がり、シリーズ化して続いている。

 

2chに貼られているリンクは上記のスプートニクのもので、やはり詳細がわからない。

 

ちなみにスプートニク日本は、元々ロシアの情報サイトで、オカルトや芸能記事からまじめな記事まで、日本を含めて全世界30カ語以上に配信している。

いい加減な情報と信頼できる情報がごっちゃまぜになっており、参考にする際は情報ソースの確認が必須なので、元になったScienceAlertの記事を調べてみた。

 

 

● Physicists Just Came Up With a Mathematical Model for a Viable Time Machine

"Mathematically, it is possible."

2017/4/28 ScienceAlertより 

 

ScienceAlertはアメリカの科学情報サイトらしく、ざっと他の記事を読んでも(スプートニクには失礼だが)なかなか信頼できそうだ。

英語のサイトだが、考察する価値はありそうなので翻訳してみる。

 

●物理学者は、実現可能なタイムマシンの数式モデルを思いついた

「数学的には、可能です」

 

物理学者は、時間と空間を前後に移動できる理論的な「タイムマシン」の数式モデルを思いついた。その仕掛けはこうだ。

 

箱の中で座っている乗客を思い浮かべてみよう。宇宙の時空の曲率を使って時間を輪に曲げることができれば、その輪は彼らが未来や過去に飛ぶことを許してくれる。

 

カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の理論物理学者で数学者でもあるベン・ティペット(Ben Tippett)教授は

「人々はタイムトラベルをフィクションのように思っています。そしてタイムトラベルを不可能だと考えがちで、実際に実行しようとはしません。しかし、数学的には、可能なのです」と語る。

 

ティペット教授は、メリーランド大学の天体物理学者デイビッド・ツァン(David Tsang)教授と共同で、アインシュタインの一般相対性理論を使って、「時空の横断的な非因果的逆行領域(Traversable Acausal Retrograde Domain in Space-time)」と呼んでいる数式モデルを思いついた(TARDIS )。

 

だが本物のタイムトラベルが実現すると熱狂するのはまだ早い。

研究者たちは、ドクター・フーのようなタイムマシンを明日にでも組み立てることができるとは主張していない。

 

彼らは、このタイムマシンを組み立てるのに必要な材料はとてもエキゾチックなもの(特別なもの)だと言っており、われわれはまだそれを発見していない(※一般的にエキゾチック物質と呼ばれる)。

 

ティペット教授とツァン教授は下記のモデルを提案している。

 

このモデルは、「時間」という4番目の次元を、3つの空間次元から切り離して宇宙を考えるのではなく、4次元時空としてとらえる。

 

これにより、宇宙の湾曲した構造の中で、時空の異なる方向がすべてつながっているという時空連続体の可能性を考えることができる。

 

アインシュタインの相対性理論は、宇宙における重力の影響と、時空の曲率(惑星や星の楕円軌道の背後にあると考えられる現象)を関連づけている。

 

時空が「フラット」であるか、または湾曲していない場合、惑星は直線で移動する。 

しかし、相対性理論によれば、時空幾何学は、大質量の物体が近くにあると湾曲し、惑星は軌道を曲げ、その星(大質量物体)の回りを回転する。

 

ティペット教授とツァン教授が主張しているのは、宇宙の中で曲がったりねじれたりすることのできる物理的空間(3次元空間)だけではなく、時間そのものが大質量の物体の近くで湾曲することができるということだ。

 

ティペット教授によると、

「時空表面の時間方向も湾曲を示しています。ブラックホールに近いほど、時間が遅くなるという証拠があります」 

「私たちのタイムマシンモデルは、直線ではなく、曲がった時空の輪を使います。その輪は私たちを過去の時間へと連れていきます」

 

この理論的性質を利用するために、物理学者は、時空幾何学における一種の「バブル(泡)」を作り出すことを提案している。その泡は強大な円形の通路にそって、時空を通ってどんなものでも運んでいく。

 

この泡が光の速度を超える速度で何かのペアとぶつかれば、数学的に時間を過去へ動かすことができる可能性がある。

 

「それは、時空の円形軌道に沿って時間的に『前進』したり『後退』したりする箱です」 と研究者は説明する。

 

「外側にいる観察者は、(壊れた卵が元に戻ったり、コヒーからクリームが分離したりするような)時間を過去へと進むボックスの中でタイムトラベラーを観察することができます」

 

下記は、バブルタイムマシンの内側にいる乗客(人物A)と、すぐそばに立っている外側の観察者(人物B)を示した図である。

(※著作権があるので、下記の図はBTTPがティペット教授たちの原図を元に書き起こしたもの。説明をわかりやすくするため注釈を加えている。原図はこちら

 

Tippett&Tsangのバブルタイムマシン
Tippett&Tsangのバブルタイムマシン

通常の環境では、時間の矢(図の黒い矢印)は、常に、過去→現在→未来という方向を指している。

しかし人物A(※女性)と人物B(※男性)は異なるドラマティックな時間を経験するだろう。

 

「バブルの中にいるAは、Bの出来事が定期的に進み、それから反転するのを見るでしょう」

「バブルの外側にいる観察者Bは、同じ位置から現れるAの2つのバージョンを見るでしょう。つまり、1人の時計の針は時計回りに、もう1人の針は時計と反対に回るのです」と研究者は語る。 

 

言い換えると、外側の観察者は、タイムマシンの内側にいる対象者の2つのバージョンを見るだろう。1つのバージョンは、未来へと進み、もう1つは過去へと進むのだ。

 

※この部分の説明は非常にわかりにくい。

原図から判断するしかないが、BTTPの解釈では、バブルの中にいる女性Aから外側の男性Bを見た場合、女性がA1→A2→A3と進む際には男性のBの時間は通常のようにB1→B2→B3と進むが、女性の時間がA3→A4→A1と進む際には、男性Bの時間がB3→B2→B1へと逆行しているように見える。

 

※反対にバブルの外側にいる男性Bから内側の女性Aを見た場合、男性の時間がB1→B2→B3へと進むとき、通常の時間を進む女性A1→A2→A3と、逆行した時間を進む女性A3→A4→A1という2つのバージョンの女性が男性には見えるのだと推測する。

 

 

ティペット教授とツァン教授は数学的にはうまくいくと言っているが、現在問題なのは、提案しているタイムマシンを実際に組み立てるための適切な材料がないということだ。

 

「数学的には実現可能ですが、このように時空を曲げるためには『エキゾチック物質』」とよばれる(現時点では入手不可能な)材料を必要とするために、タイムマシンを作ることはまだできません。それはまだ発見されていないのです」とティペット教授は言う。

 

彼らのアイデアは、もう1つ別の理論的なタイムマシン、アルクビエレ・ドライブ(the Alcubierre drive)を思い起こさせる。アルクビエレ・ドライブもまた、(仮想的な)時空間を通って乗客を運ぶために、エキゾチック物質のシェル(殻)を使っている。

 

※アルクビエレ・ドライブとは?

wikiより補足

アルクビエレ・ドライブ(Alcubierre drive)とは、メキシコ人の物理学者ミゲル・アルクビエレが提案した、アインシュタイン方程式の解を基にしたアイデアで、もし負の質量のようなものが存在するなら、ワープないし超光速航法は可能になるという。

アルクビエレ・ドライブは、例えると、宇宙船の後方で常に小規模なビッグバンを起こしつつ、宇宙船の前方で常に小規模なビッグクランチを生じさせ、光より速く船を押し出すような時空の流れを生み出そうというアイデアである(相対性理論は、空間自体の拡張速度が光速を超えることを禁止してはいない)。

 

 

2つのアイデアは、エキゾチック物質のような時空を曲げる材料を実際にどのように作り出すかという方法が見つからない限り、これ以上前に進めることはできない。しかし、ティペット教授が指摘するように、私たちはタイムトラベルの可能性についての考察をやめることはないだろう。(この心がくじけるほど)難解な物理学を考えるための方向性は、たくさんあるのだ。

 

「時空を研究することは魅力的でかつ不確かなのです」と彼は言う。

 

「私の分野の専門家たちは、1949年以来、数学的なタイムマシンの可能性を探索しており、私の研究はタイムトラベルを行うための新しい方法を提示しているのです」。

 

この研究は、「古典的な量子重力」 (Classical and Quantum Gravity)として出版されている。 

 

 

注:上記の日本語訳にある※の項目は、原文にはないBTTPが加えた補足です。

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以上がScienceAlertのソース記事の翻訳だが、例のごとくつたない語学力で訳しているので、誤訳や勘違いがあれば、ぜひこちらまでご指摘いただきたい。

 

さて、ソース記事を考察してみると、スプートニクの記事ではわからなかったものが見えてきた。

 

まずスプートニクの記事に書いてある「カナダのブリティッシュコロンビア大学の物理学科は」は、「カナダのブリティッシュコロンビア大学の物理学者は」の誤訳だろう。

この数式モデルを提示したティペット教授とツァン教授の名前がいっさい出てこないのはさすがにかわいそうだ。

 

「このマシーンの形は『ボックス』ないしは『バブル』のようなもので時間と空間の中で円を描いて動いている」という表現も、ScienceAlertを読めば、この数式モデルがアインシュタインの相対性理論に基づいており、いわゆる「閉じた時間的曲線(closed timelike curve)」のアイデアを拡張して、幾何学的な非因果的曲線のバブルの輪にそって時空を移動するボックス型タイムマシンということがわかる。

 

そして「科学者らはタイムマシーンの製造がうまくいかない原因はそれを作るための適切な素材がないことにある」として、この素材を見つけることができれば、すぐにでもタイムマシンを作ることができるようなイメージで書かれている。

 

しかしバブルの中を移動するボックスを包むためのその素材とは、実は「エキゾチック物質」である。

少しでも物理やタイムマシンについての興味があれば、「エキゾチック物質」を作ることの難しさがわかるだろう(というか「エキゾチック物質」は負の質量を持つような物理法則を破りうる仮説上のもので、現実にそんな物質が存在するのかさえわかっていない)。

 

ということで、エキゾチック物質を利用する時点で「ティペット&ツァンのバブルタイムマシン(勝手に名前をつけてしまった)」が、このサイトで紹介している他のタイムマシンやタイムトラベル理論にくらべて、2chで騒がれているほど、現時点で実現可能性が高そうには思えない。

 

さて、それでは現時点でこのサイトのテーマでもある「過去に戻る」ことのできる実現性が最も高いタイムマシンとは何か?

 

ちょうど5月でこのサイトが開設1周年になるので、次回は「現時点で最も実現性がありそうなタイムマシン」(2017年度物理版)を考察してみたい。