●「雷でタイムトラベルした男(1)」 (マーカムのタイムマシン)

2018/3/16

 

Jacob's Ladderイメージ

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」といえばエメット・ブラウン博士が雷を誘導してマーティの乗るデロリンアン型タイムマシンをタイムトラベルさせるシーンが印象的だ。

 

なぜ雷を使ったのかというと、マーティがタイムトラベルした1955年には、タイムマシンの次元転移装置を作動させるために必要な1.21ジゴワットの電力を得る手段が雷ぐらいしかなかったからだ。

 

この1.21ジゴワットだが、恥ずかしながら実はそんな単位など存在せず、映画の創作だと最近知った。

共同脚本家のボブ・ゲイルが "gigawatt"(ギガワット)とすべきところを誤って"jigowatt"(ジゴワット)と書き、そのまま採用されてしまったらしい。日本で主流のキロワット換算では121万キロワットに相当するそうだ(ピクシブ百科事典より)

 

 

さて、なぜ最初に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の雷シーンを紹介したのかというと、今回は雷(電気)でタイムトラベルした男の話をしたいからだ。

 

この話を知ったきっかけは、たまたま古本屋でみつけた「ムー」の記事だった。

 

「ムー 2012年 12月号」 の南山宏氏の綺想科学論で「2年先の1300キロ離れた場所に移動することに成功!! タイムマシンを作った男」というタイトルに魅かれて読んでみた。

 

1994年、21歳のマイク・マーカムは電子機器を自作している最中、偶然にタイムマシンを開発したという。彼はラジオの人気番組がきっかけで全米で有名になり、たくさんの支援を得て大型のタイムマシンを完成させたが、1998年の実験中に消息不明になってしまった。

彼のタイムマシンは「Jacob's Ladder(ヤコブの梯子)」と呼ばれている。 

  

なかなかおもしろそうな内容だ。ネットで調べてみると「ムー」の元ネタだと思われるオーストラリアの不思議系サイエンス雑誌「Nexus Magazine」の記事(2011年Volume18,Number5号より)を見つた。他のサイトの情報と合わせて紹介しよう。

 

 

1994年、アメリカのミズーリ州スタンベリー。21歳の青年マイク・マーカムは自宅で電気機器を作っていた。

スタンベリーは小さな田舎町で当時インターネットも通じておらず、マーカムは電気工作を趣味にしていた。

彼がそのとき作っていたのは「ジェイコブズ・ラダー(ヤコブの梯子)」と呼ばれる2本の垂直な金属のロッドの間をアークが放電する装置だった。 

※ジェイコブズ・ラダーの実験動画(youtubeより)

 

通常のジェイコブズ・ラダーはアークが2本のロッドの間を下から上へと駆け上がっていくが(その様子から梯子と名付けられている)、マーカムの装置のアークはロッドの底に張り付き、ロッドの上に熱を発するキラキラと輝く10セントサイズ(直径18mm)の球体が回転しながら浮かんでいた。

 

このときマーカムは何を思ったかキッチンテーブルにあったネジを拾い上げ、輝く球体目掛けて放り投げた。ネジは上手い具合に球体に向かって飛んでいき、球体に接触した瞬間、吸い込まれるように消えてしまった。

 

あわてて消えたネジを探したが、テーブルから少し離れた床の上に転がっていた。

 

幻覚ではと思い何度か同じことを繰り返したが、やはりネジは球体に吸い込まれて消え、少し離れた場所で見つかった。

 

録画しようとカメラを取りにいったが、その間にアークがはじけて装置は壊れてしまった。

 

マーカムはこの現象の原因を幻ではなく球体に入ったネジが瞬間移動したのではないかと考え、スケールアップした装置を作ろうと試みた。

 

問題は電力だ。マーカムはなんと地元の電力会社の発電所から変圧器を拝借しようと考えた。数週間かけて1つずつ110~150kgもある変圧器を合計6つも自宅へと運び込み、大型のジェイコブズ・ラダーを組み立てた。

 

1995年のある夜、実験を開始するためマシンのスイッチを入れたとき、彼の住む町に不幸な出来事が起こった。

マーカムの装置は瞬間的に巨大な電力を生み出し過剰な負荷がかかり、スタンベリーの町一帯は真っ暗になってしまった。

 

警察によって停電の原因がマーカムの仕業だと突き止められるのにさほど時間はかからなかった。マーカムは逮捕され、変圧器を盗んだ罪で5年の執行猶予付き判決を受けた。

 

マーカムは2ヶ月で出所したが、近所の目もありそのままスタンベリーの家に住むことはできず、少し離れたセントジェセフのアパートに引っ越した。

 

このときの事件を地元新聞が記事にしたところたちまち話題となり、全国紙までもが「ミズーリのおバカがタイムマシンをつくるために電線を盗んだ」と報じた。

 

当時全米で人気のあったラジオの深夜番組「コースト・トゥ・コースト・AM」の司会者だったアート・ベルが番組に届いたリスナーの情報からマーカムを知り、さっそくインタビューを試みた。

 

他のマスコミの取材は断っていたマーカムだが、超常現象がテーマのこの番組に興味を引かれたのか、出演に応じた。

そしてこのとき出演したラジオショーは大きな反響を呼び、マーカムの名は全米に知れ渡った。

 

アート・ベルの番組を聞いてマーカムに興味をもったリスナーたちが昼夜をとわずマーカムのアパートに押し寄せた。

これにはマーカムもうんざりしたが、注目されたのは悪いことばかりではなかった。彼の研究を手伝いたいという支援者が次々と現れたのだ。

 

資金だけでなく電子部品などさまざまな機械が届けられた。その半分は実験に使えるものではなかったが、マーカムはこれらを好意として全部受け取った。

 

支援者の一人はカンザスシティの大きな倉庫をまるごと1つ提供してくれた。

カンザスシティの倉庫の中で、マーカムは人間がタイムトラベルできるサイズのタイムマシンの開発に取り掛かった。

 

マーカムの新しいタイムマシンが完成したのは3年後の1998年だ。

 

それは最初の小さなジェイコブズ・ラダーに比べれば異様な形をしていた。高さは10mほどあり、何トンもの電磁石や変圧器が組み込まれ、300万ボルトの出力を出すことができた。

 

マシンが完成すると、マーカムはさっそくモルモットを使った動物実験をはじめた。

マシンのスイッチを入れると上空に幅1.2mの熱を発して回転する輝く球体が出現した。

 

高所作業車の作業台に乗って18mの高さまで上昇したマーカムは、眼下の輝く球体めがけてモルモットを放り投げた。するとモルモットは球体に飲み込まれ消えてしまった。

 

モルモットは倉庫の駐車場の敷地で無事見つかった。

 

何度もモルモット実験を繰り返したが、モルモットが発見されるのは決まって倉庫の東西方向だった。南北方向に出現したことはなく、この原因をマーカムは地球の磁場の影響かもしれないと言っている。

 

そして1998年のある日、いよいよマーカムは自分自身を実験台にすることに決めた。

 

高所作業車のクレーンの先に取り付けられた作業台に乗ったマーカムは眼下の熱く輝く球体を見つめていた。額からは大粒の汗が流れていた。大きく息を吸い込むと、球体めがけてジャンプした。

 

そしてその日からマーカムの消息はぷっつりと途絶えてしまった。

 

 

マーカムは2011年に掲載された「Nexus Magazine」のインタビューで次のように答えている。

 

球体に飛び込んだ瞬間、閃光弾が爆発したようなまぶしさで何も見えず、ドシンと裂ける音がして何も聞こえなくなった。身体にダメージはなかったがしばらく動けなかった。

 

ようやく異常な精神状態から立ち直って歩き出したとき、マーカムはタイムマシンのあったミズーリ州カンザスシティから北東へ1300kmも離れたオハイオ州フェアフィールド郡の農場にいた。とても寒くお腹がすいていた。

 

なんとかシンシナティのホームレス宿泊施設までたどりついたが、自分が誰なのか名前すら思い出せなかった。

 

記憶は数ヶ月でほとんど戻ったが、その過程で驚くべき事実を知った。今は2000年・・・そう、タイムマシンに飛び込んだ1998年から知らぬ間に2年が経過していたのだ。

 

マーカムは一瞬で2年の月日と1300kmの距離を飛び越えてしまった。

 

その後マーカムは工場のパートで働き資金を貯め、よくやくカンザスシティのタイムマシンのあった倉庫に帰ってきた。

 

しかし彼を待っていたのはタイムマシンどころか何もないからっぽの倉庫だった。タイムマシン実験の進捗状況を記録したビデオも日記もすべて消え去っていた。

 

マーカムが一番落胆したのは彼を援助してくれた支援者たちの名前をまったく思い出せなかったことだ。彼らには感謝しかない。地球で一番恩知らずなヤツだと自分を責めた。

 

現在のマーカムはオハイオ州に住んでおり、たまに仕事をしながら、インターネットや科学雑誌を読んで過ごしている。

 

マーカムは最後にこう語った。

「戸籍上では私は37歳だが、2年の時間を飛び越えているから、実際は35歳なんだよ」

 

 

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以上が「ジェイコブズ・ラダー」と呼ばれるタイムマシンを作ったマイク・マーカムの物語だ。

 

冒頭で紹介したエメット・ブラウンことドク博士にも負けないぐらいの(いい意味で)マッド・サイエンティストだ。

 

ラジオキャスターのアート・ベルがマーカムに「MMM(マッド・マイク・マーカム)」という愛称をつけたのもうなづける。

 

映画にもなりそうなおもしろい話だが「Nexus Magazine」にはマーカムのタイムマシン実験に関する地元の大学教授の意見が掲載されている。

 

ノースウェスト・ミズーリ州立大学の物理学者デイビッド・リチャードソンと物理化学者リック・トゥーミーによれば、マーカムが産み出したものは「局在化した雷」だという。

 

リチャードソンによれば、いわゆる電気のエネルギーぐらいではマーカムが想定するようなタイムトラベルを可能にするほどの時空を歪める扉は産み出すことができない。

もし電気にそのような力があるのなら、嵐で雷がたくさん発生する場所には時空の扉が出現するはずだが、そのような事例は観測されていない。

逆に変圧器でマーカムが作った現象は雷でも作ることができる。

 

トゥーミーも、最新の物理学に電気とタイムトラベルを結びつける理論はないという。

マーカムのタイムマシンの欠点は、現在考えられるどんなタイムトラベルの理論とも一致しないことだ。タイムトラベルは「超光速」あるいは「重力」のどちらかを使うはずだ。

「タイムトラベルの基本」でも紹介しているが、アインシュタインの特殊相対性理論を利用して「超光速」(光の速度に近いスピード)で移動して時間の進みを遅くする方法と、一般相対性理論を利用して「重力」の強い場所に留まり時間の進みを遅くする方法が、タイムトラベル理論の代表的な2つだ。

 

トゥーミーは、もしマーカムが電気と重力をいっしょに含める方法を思いついたのなら、それこそ物理学の「聖杯」を見つけたのと同じだという。

※トゥーミーのいう「聖杯」とは「超大統一理論」のことを意味している。

現在の物理学では、自然界に存在する4つの力のうち、「電磁力」・「強い力」・「弱い力」の3つまでを統一する「大統一理論」が完成間近とされるが、それに「重力」を加えた「超大統一理論」(「万物の理論」ともいう)への道のりはまだまだ遠い。超弦理論が「万物の理論」の第一候補とされている。

 

 

2人の教授の意見は十分に納得でき、それならばマーカムのタイムマシンは幻だったことになる。

 

ただし、雷というわれわれにも身近な現象にも、まだまだ解明されていない謎は残っている。

例えば昨年、京大からこんな研究成果が発表された。

 

●雷が反物質の雲をつくる -雷の原子核反応を陽電子と中性子で解明-

2017/11/24 京都大学プレスリリースより

 

次回は京大の雷に関する研究と、3つの力と「重力」を統合する「万物の理論」が完成すればどのようにしてタイムトラベルへの道が開けるのか考察してみたい。