「梯子」の物語はとても面白いのですが、非常に長く、しかもまだ(私の思いとしては)完結していません。オカルトのスレには「梯子」以外にもよく似た体験をした話がときどき語られます。「梯子」のまとめサイトもありますし原文はそちらを見ていただくとして、「梯子」がどんな話なのか、私が達した結論も含めて書いたオリジナルストーリーです。全部で3話の予定で、1話5~10分程度で読める長さなのでお気軽にどうぞ。

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オリジナルストーリー「結び目」

 

【1話】

 

ちょっと聞いて欲しい。ここ一ヶ月で起こった出来事。釣りでもなんでも思ってもらってかまわないけど、とりあえずどこかに吐き出したいから書く。

当方自称デザイナー、といってもただの田舎の印刷会社勤め。毎日チラシなんかをつくっている。高校を出てグラフィック系の専門学校をなんとか卒業し、就職直後は意識高い系に憧れていたが、ここ数年は現実を知り打ちのめされている。

残業代も出ない残業を終えて家に帰ってするのは2ちゃんへの書き込みぐらい。たまにスレたてるもレス付かず落としてばかり・・・。

そんな俺の唯一の関心は明晰夢を見ることだった。ちょうどじいちゃんの葬式が終わった頃からだから一年も続いている。ある夢を見て、その夢がやけに印象的で、何としても続きが見たかったんだ。ちなみにどうでもいいけど両親は中学のときに事故で亡くなった。それから父方のじいちゃんとばあちゃんに育ててもらった。一人っ子で兄弟もおらず、だから今ばあちゃんと田舎の古いけど広い一軒家で二人ぐらしです。

夢関連のスレを読み漁っていたところ、アメリカのドリームハーブという薬が明晰夢が見えると話題になっていた。名前はかなりあやしく、いわゆる違法系のドラッグぽかったけど、実際に取り寄せて飲んだというツワモノたちが何人もいて、みんな何かしらの効果はあったと書き込んでいた。いままでいろんな薬や器具を試したけど一回も成功したことがなかったのに、この薬を飲んで寝たらすぐその夜に明晰夢を見ることができた、とか、明晰夢までとはいかなかいが、夢がはっきり鮮明になったとかの意見が次々と書き込まれた。実際その薬のステマかもしれないが・・・。
 
親しい友達もおらず、この世に未練はあまりなかったので(ばあちゃんのことだけは心残りだったが)、最悪そのまま飲んであの世へ行っちゃってもいいやぐらいの気持ちで注文しようとした。だけど外国の通販でモノ買うのがはじめてで英語もよくわからず(スレにわかりやすく買い方が書いてあったので助かったが)つまずいたのが支払いだった。会社勤めは一応しているものの、いわゆるクレジットカードなんかももっておらず、どうしようかとつまづいていたところ、さすが2ちゃん、親切なヤツがpaypalって支払い方法を教えてくれた。
 
たしか夜九時をすぎていたと思う。さっくpaypalで支払うための電子マネーを購入するため、わが田舎では貴重な近くのコンビニへ現チャリを飛ばした。コンビニがすばらしいのはこんな田舎の店舗でも置いてある商品は都会とほとんど同じってことだ。さっそく電子マネーで5000分のカードと、なんか気恥ずかしいので缶コーヒーを1本つかんでレジに持っていった。若い茶髪の店員にとくに何の反応を示されることもなく事務的に清算を終えて、うきうきしながら店をでかけたところで、後ろから声をかけられた。

振り返ると、こんな田舎にはよくいるカーキ色の作業服を着たおっさん。

「は、はぁい?」って上ずった俺の返事にかぶせって「ちょっといいか?」とおっさん
首を縦に振るのがやっとのコミュ症な俺に「突然だけど、これ」と一枚の写真を渡された。

写真にはショートカットの若い女性が写っていた。美人の部類に入る顔立ちだがなんだかさびしげ。裏には「12/24 15:00 ○○公園」と走り書き。

「来月の12月24日、クリスマスイブにその公園に行ってほしい。そこで彼女がある男性と出会うのを邪魔してくれ。彼女は当日必ず一人でその公園で待っている。君は道を聞くなど何でも理由をつけて、その場から彼女を離して欲しい」
 
こんな感じだっと思う。コンビニの入り口の横で立ち話で伝えられた。正直?マークが頭の中に並んだよ。まず宗教の勧誘を疑った。こんな田舎でも駅の周辺じゃけっこうみかけるんだ。だいたいドラマじゃあるまし見ず知らずの人間にいきなりこんなこと頼むなんて。でも次のおっさんの言葉が写真を返しかけた俺の手を止めた。

「報酬は君が今一番のぞんでいることだ。夢の中の女性に会わせてあげるよ」

凍りついた。ドリームハーブはまだ注文してない。
 
というか何でおっさん知ってんの? 俺のことをネットか何かで監視していた? いやいや明晰夢のスレにはりついていたのがばれても、さすがに夢の中の彼女まではわかるはずがない。明晰夢を見たいと思ったきっかけは、たまに夢に出てくる彼女なんだ。

一ヶ月に一回のペースで同じ夢を見てる。アパートらしき部屋、食卓のテーブルで新聞を読んでいる俺。パンと目玉焼きとサラダを載せたトレイをエプロン姿の女性がもってくる・・・。
 
今の俺とは到底無縁な、よくあるリア充新婚夫婦の朝の風景。
 
でもかなりぼんやりしてて女性の顔はわからない。ただ目覚めると、いままでに感じたことがないぐらいの幸福感に包まれているんだ。内容もパンが少し焦げ気味だったとか、エプロンにかわいらしい花柄模様が入っていたとか細かいところまでよく覚えている。

作業服のおっさんはコンビニの駐車場に停めていた軽トラに乗り込み去っていった。

家に帰った俺は、とりあえず買ってきた電子マネーでドリームハーブの注文をすませると、風呂に誘うばあちゃんの言葉も無視して寝てしまった。

それから数日は会社から帰ってきて相変わらずネットに入り浸りながら、女性の写真を眺めたり(ちなみに写っている女性は夢の中に出てくる女性とはぜんぜん違う。写真の女性はショートカットだったが、夢の中の女性はロングだった)、ドリームハーブの注文状況を確認しながらすごしていたと思う。

そんなある日、ネットのなかで俺と同じような経験をした話をじっくり読んだ。一時期オカルト好きの2ちゃんねらーの間で話題になったので、ずっと前にさわりだけ読んだことがある。なんせ長いスレなんだ。改めて読み直すと「梯子」という愛称をつけられたスレ主がある雨の日コンビニで岡田真澄の紳士から紙のメモとピアスを渡され、それを2ちゃんのスレで相談したところ、いろいろな事件が起こっていくという展開。

まあ釣りだと思うけど、梯子もどこかの神社で女の人が誰かと出会うのをどうのこうのとお願いされたらしい。梯子の場合はメモに不可思議な外国語の言葉や暗号が記入されてたっけ。俺はこの写真一枚。まあ正直半分どうでもよくなっていた。俺は梯子みたいにネットに書きこむこともしなかったし・・・。

ただそれも、あの日図書館で夢の中の彼女と出会うまでは、だった。